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The Film Detective From『The Sherlock Holmes Vault Collection』 Blu-ray
2021年12月発売
★ ドイルとアンナ・メイ・ウォンに懺悔しろ
門前払いが続いていたドイルの原稿「緋色の研究」をしぶしぶ受け入れたのは『ビートンのクリスマス年鑑』の版元ウォード・ロック社。とはいうものの印税払いを断られ、25£貰う替わりに著作権買取なんて条件は作者にとって耐えがたい仕打ちにも等しい。本盤のブックレットでライナーを執筆しているC.Countney Joynerは「緋色の研究」の著作権がドイルとウォード・ロック社の間で複雑になっていたため、1933年公開の映画「A Study In Scarlet」は作品名の使用権しか獲得できなかったと言うが、この人、映画界には詳しくてもドイルにはそれほど詳しくなさそう。そんな感じがする。
一夫多妻制。指導者ブリガム・ヤングに従わなければ死の懲罰。モルモン教徒がそういう描かれ方をしているぶん、昔から「緋色の研究」は風当りが強く、映画化するにしたって厄介な問題は想定できたんじゃない?それで予算的にも対外的にも強行突破できないのなら「緋色の研究」にこだわる必要は無いし、ホームズ映画を作りたければ原作の選択肢は他にいくらでもある。結局「名探偵のネームバリューさえ利用できれば、中身はどうでもいい」と思っているから、こんなタイトル詐欺の作品(Made in USA)が出来上がるのだ。
【 仕 様 】
リージョン・フリー:日本のBDプレーヤーで再生可能
本編:72分
字幕:英語/スペイン語
封入物:ブックレット/オリジナル・ポスター・レプリカ・ポストカード
【 画 質 】
100点中45点。
傷や揺れこそ無いもののコントラストに乏しく、ブルーレイで堪能する画質とは言えない。
テレビがまだ地上波オンリーだった頃、
深夜に放送していた映画をVHSレベルでブラッシュアップしたぐらいのレストア。
パイク夫人(アンナ・メイ・ウォン)
まず「緋色の研究」なのに、ジェファーソン・ホープ/イノック・ドレッバー/ジョセフ・スタンガソン他、原作の重要人物は誰一人登場せず〝Rache〟の血文字さえも無し。企画立ち上げ時からアンナ・メイ・ウォン(Anna May Wong)を大きくフューチャーするよう決めていながら彼女を拝める時間は10分程度。ホームズ第一長篇完全無視でも、そこそこ楽しめる内容ならまだ許せるのだが、自分は殺されたかの如くカムフラージュする犯人のトリックにしろ良いところもあるわりには、退屈なムードから抜け出せぬまま終わってしまう。とにかく次の画像を見てもらおうか。本作におけるシャーロック・ホームズとワトソン博士である。普通、禿(ハゲ)の男優をワトソンにキャスティングする?
ホームズ(左/レジナルド・オーウェン)
ワトソン(右/ウォーバートン・ギャンブル)
ジジむさいワトソンだけでなく、レジナルド・オーウェン演じるホームズも深みやインテリジェンスに欠け、全く名探偵に見えない。戦前のミステリ洋画を何本か観ている人なら薄々気付いておられるだろうが、それらは脚本が弱いだけじゃなくテンポは悪すぎるし、音楽・SE(効果音)で盛り上げる演出も無い。さらに予算の無いB級映画はロケもろくにしてなかったり、セットのバリエーションが貧弱だったりで、これじゃ気の利いた映画は出来っこない。本作だってドイルの原作に頼らずともアンナ・メイ・ウォンの妖艶なマダムは確実に衆目を集められるんだから、ロバート・フローリー(本作の脚本担当)をせっついて、ホームズとは無関係なミステリのプロット書かしときゃ良かったんだよ。
(銀) プロデューサーがアホだと、当初優れた企画が取沙汰されていても、結果ダメになる。それは小林信彦『天才伝説 横山やすし』でがっつり学ばせてもらった。映画「A Study In Scarlet」には「そして誰もいなくなった」を思わせる趣向があり、ここからクリスティーはインスパイアされて六年後あの名作を発表したなどと放言している外人もいるみたい。まあ、100%ありえません。