2023年9月14日木曜日

映画『Der Hund Von Baskerville』(1929)

NEW !

Flicker Alley  Blu-ray/DVD
2019年2月発売



★★★★  サイレント末期のドイツ映画「バスカヴィル家の犬
  




イギリスとドイツは第一次世界大戦において敵国同士であり、結果屈辱的な負け方をしたのはドイツのほう(その反動がヒトラー/ナチスの台頭に繋がる)。シャーロック・ホームズ晩年の事件「最後の挨拶」でも、イギリス侵略を目論むドイツ側のスパイ/フォン・ボルクはホームズによってみじめに捕獲されてしまう。つまり第一次大戦後のドイツ人からすれば「なにがなんでもイギリス憎し」となって不思議じゃないのに、敵国の英雄シャーロック・ホームズの映画を制作しているのは非常に興味深い。韓国人や中国人だったらまず考えられないことだ。




1929年。世の中ほとんどトーキーに変わろうかというサイレント末期に公開されたドイツ映画「Der Hund Von Baskerville(バスカヴィル家の犬)」。監督・脚本はRichard Oswald
これ、フィルムは疾うの昔に失われてしまったとばかり思われていたところ近年ポーランドより奇跡的に発掘。その昔ヨーロッパの映画館で実際観た人は年齢的にもほぼ生存していないだろうし、100年の時を超えて現代に蘇った幻の作品が観られるのは嬉しい。




【 仕 様 】

北米盤   NTSC/リージョン・フリー


Blu-rayDVD二枚組

(内容は同一なれど注意点あり。下段 【ボーナス・コンテンツ】欄を参照。)


字幕:   英語

 

 

【 キャスティング 】

シャーロック・ホームズ役のCarlyle Blackwellはアメリカ人俳優。シドニー・パジェットの挿絵っぽい風貌ではないものの名探偵の佇まいとしては悪くない。どの配役にも不満は無いが、唯一あるとすればGeorge Seroff演じるワトソン。彼が道化っぽく演出されてしまうのは(イヤだけど)仕方ないとしても、この人だけ背が低い上に口髭さえ無いので若いカルロス・ゴーンみたいに見えてしまう。




 シャーロック・ホームズ(Carlyle Blackwell)




 ワトソン、荒地に怪しい人物のシルエットを発見





【 内 容 】

ムードたっぷりの無声モノクロ映像と陰鬱な音楽とが題材にピッタリ合っているのがイイ。それだけに前半部分、ホームズとワトソンがヘンリー・バスカヴィルと初対面したあとワトソンとヘンリー卿がバスカヴィル邸に入るまでのフッテージが悲しいかな欠落しているため、そこだけはスチールと字幕を用いた説明になるのが惜しまれる。

 

原作の主要登場人物でこの映画に出てこず省略されてしまっているのはレストレード警部とカートライト少年ってとこ。なぜかフランクランド老人は冒頭シーンのバスカヴィル邸内でチャールズ・バスカヴィル卿やモーティマー医師と一緒に姿を見せるだけで、後半ワトソンとの絡みは無い。これから観る方のために詳細は伏せてはおくが、おおむね原作に準拠しているとはいえ映像化にありがちな改変はやっぱりある。問題の魔犬は・・・そうだな・・・原作に倣って犬に燐を塗っている設定らしいが、その燐光の怪しさは画面から感じ取れない。本当に犬に燐など塗ったら可哀想だから仕方ないか。




    深夜、邸内を忍び歩くバリモア




  このシーンがあるだけで〝良し〟としよう





【 ボーナス・コンテンツ 】

実はRichard Oswald監督、本作に先立つこと十五年前(1914年)に公開された同じタイトルの映画「Der Hund Von Baskerville」でも脚本を担当。その時の監督はRudolf Merinert。当然出ているのはすべて1929年版とは別の役者。こちらも本盤に収録されているけれども(ただしBlu-rayのみ)、原作の設定を借りているだけでホームズと真犯人のあの人とが化かし合うコメディ・スリラー。1929年版のように原作の味わいを活かした正統派スクリプトにしてくれればよかったのに、1914年版は文字通り只のおまけと割り切って見るしかない。



残り二つのボーナスはショート・ドキュメンタリー。

Arthur Conan Doyle and The Hound of the Baskervilles

Restorling Richard Ozwald’s Der Hund von Baskerville

 

 


歴史的価値を鑑みて★4つ。1929年版のフッテージがすべて揃っていたら満点にしたかも。






(銀) なんせドイルがまだ生きている時代の映画ってのがポイント。本盤に収録されているふたつの「Der Hund Von Baskerville」、どちらにも銅像や胸像の裏側に〝あの人〟が隠れてバスカヴィル邸内を覗き見るシーンが出てきたり、またバスカヴィル邸に忍び込むための秘密通路があったりして、原作に無いことを私はしてほしくないんだけど、Richard Oswaldはそういうのが好きみたい




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