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奥方・東山あかねと共に長年JSHCの主宰を務めてきた小林司は、本書が頒布された時はまだ健在だったのだが、氏はこの頃コナン・ドイルの母メアリーとウォーラー医師の不倫をはじめとするドイル家の醜聞に取り憑かれており、小林・東山夫妻の翻訳で出版した河出書房新社版『シャーロック・ホームズ全集』の「訳者あとがき」においても、たいして関係が無いはずのドイル家の醜聞ネタを矢鱈持ち込む失態を犯している(文庫版はかなりの部分が削除されているので「訳者あとがき」がそのまま載っているか、私は未確認)。
小林司は JSHC の総帥だ。だいたいの場合そんなエラい人の言動に会員達は気を遣いそうだし、たとえおかしな発言があっても付和雷同に黙っているのが日本人の悪い習性ですよ。しかし本書ではドイル家の醜聞ネタのゴリ押しに首を傾げる意見だけでなく、それまで日本でずっと「緋色の研究」と訳されてきたホームズ第一長篇「A Study in Scarlet」を河出版『ホームズ全集』で小林司が「緋色の習作」と改題した点についても、会員は忌憚なく「ノー」を突き付けている。結果として「緋色の習作」という題を取り入れた後続の新訳本は出てこないまま現在に至っているのだが。
そうそう、今日の記事を書いていてだんだん思い出してきた。平山雄一なんかは「緋色の習作」問題だけでなく、彼が山中峯太郎贔屓であるために峯太郎版子供向け翻案ホームズ本を断固否定する小林に(実際顔を突き合わせてケンカするほどではないにせよ)好戦的だったな。私はあの峯太郎ホームズに関しては小林と同様に否定的な目で見ている。小林の没後、峯太郎ホームズは平山のプッシュで作品社から再発されたが、泉下の小林はどう思っているだろう・・・。
話が逸れてしまった。とにかく『実用シャーロッキアナ便覧』はお薦めしたい一冊なんだけど、なにせ当時JSHC会員でないと入手できなかったものだし、どうしても欲しければ会員が手放した古書を見つけるしかない。池袋のミステリー文学資料館には一冊置いてあったんだが閉館しちゃったしなあ。
(銀) 『実用シャーロッキアナ便覧』という書名がシャーロック・ホームズ晩年の著作『実用養蜂便覧』のシャレであることは、ホームズを愛する人にとって万国共通の常識。小説を読んで楽しむことよりレア本を所有して「転売したらカネになるな、ヘヘヘ」としか考えていない一部の古本老人はこんなホームズ基礎知識さえも知らないでしょうけどね。