2023年11月15日水曜日

『西尾正探偵小説選Ⅰ』西尾正

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論創ミステリ叢書 第23巻
2007年2月発売




★★★★  論創ミステリ叢書がまだ
               正常に刊行されていた頃の巻





身体は健康でなく、作風からして怪奇性の強い印象を持たれている西尾正ゆえ、彼に対し内向きかつあまり物申さぬ人物像を思い浮かべがちだが、存外探偵小説評者として弁の立つ人で、私の見方からしても共感できる言説は少なくない。
 

 

〝江戸川乱歩氏が実話嫌いだと言っていられるが、僕も実話はあまり面白く読めない。(中略)実話なんかよりフィクションからより多く真実性や迫真性を感じ得る。〟

 

〝井上良夫の(中略)「探偵小説の魅力の大半は謎々に在るというよりもむしろその作品の持つ緊張と興奮と不安の漲る探偵小説独特の雰囲気に在る」とはまことに同感〟

 

〝探偵小説壇が如何に狭いとは言い条、死者に対する追悼文のごとき御世辞たらたらの御座なりを言い合っている〟

 

〝僕は飽くまでも面白い探偵小説が読みたいのであって、難解な法医学や物理学(中略)、そういうものを難解極まる探偵書の形式にした文章は苦労してまで読みたくはないのである。〟

 

〝探偵小説にユウモラスな味を盛ろうとする主義には根本的に賛同し兼ねる。〟

 

 

西尾の雑感を読んでいると、心から江戸川乱歩を愛し、探偵小説に深く心酔しているのが手に取るようにわかって微笑ましい。だからこそ〝海野十三の主張する「科学小説」も高級読者が的となるものであろうが、作品を検討するに「赤外線男」「浮囚」「人間灰」などは、材料の奇抜さにまけて、馬鹿馬鹿しさが先に立ち甚だ失礼な言い分だが、子供ダマシのような気がする〟など歯に衣着せぬ厳しい意見をビシバシ放っていても、そこに不快感はいささかも受けず、ナチュラルな人なんだなァと思うばかり。本巻には【評論・随筆篇】86ページほど収録されているので西尾正の本音の部分をじっくり確かめて頂きたい。

 

 

 

それに比べると小説のほうは、美点に負けず劣らず欠点も見受けられるのが問題。お上から発禁を言い渡された「陳情書」なんかエロ・グロ・ナンセンス後期にふさわしいムードが漂ってて良いには良いのだけど、いくらドッペルゲンガー云々といったところで、オリジナリティの足らぬまま歩「猟奇の果」前半部のテイストをサンプリングしているように映ってしまう。

 

 

「打球棒殺人事件」「白線の中の道化」は野球という、❛病的であること❜が売りの探偵小説とは相反する世界観を伴うスポーツを題材にしている。でも男女間の欲望が渦巻く殺人が発生するとはいえ、ダーク・トーンを突き詰めたい西尾にとって、果して野球ネタはアリだったのかな?その「打球棒殺人事件」しかり「土蔵」しかり、謎の二転三転ぶりがどうにもクドく、作品の造形を素直に享受できない。「海よ、罪つくりな奴!」では鎌倉の夏の海で楽しむ若者の流行心を綴ったりしているところから、病弱な西尾も実は心の隅で華やかな青春に憧れを抱いていたと想像することも可能だろう。




「床屋の二階」「青い鴉」「奎子の場合」「海蛇」

「線路の上」「めつかち」「放浪作家の冒険」

 

 

「骸骨 AN EXTRAVAGANZAは力作と呼んで差し支えないし、変格怪奇探偵作家として読者を引き付けそうな体臭は持ち合わせているのに、魅力的な素材を咀嚼しひとつの作品へ形を成すための❛構成する能力❜が足りてないような気がした。よって【評論・随筆篇】★5つ、【創作篇】は★4つ未満。デキる編集者が常に傍にいてアシストしていたら、きっとこの人はさらに良いものが書けた筈。

 

 

 

(銀) この巻の頃のように、論創社が論創ミステリ叢書を滞りなくリリースしていた時期もあった。それが今では、論創社編集者の黒田明が「出します出します」と坂上二郎もどきのツイートをしておきながら去年はたった二冊、今年に至っては一冊さえも出せていない。
参考までに、このツイート画像をクリック拡大して見てほしい。


























論創ミステリ叢書は一向に出せないばかりか、さんざん放言してきた甲賀三郎翻訳セレクションも「刊行予定は現在のところ〈なし〉という状態です」だとさ。甲賀といえば「随筆『欧米飛びある記』も復刊します」とか無責任に拡散してたよな。母さん、あの甲賀本の話、どうしたんでせうね?




今日も今日とて論創社公式X(旧ツイッター)では論創nonfictionの名のもと、左巻きの見本のような編集者(ミステリ担当者ではない)がこう発信している。




 

 

 



〝「責任はある。けれど取らない」という傾向が政治家にまん延するように。こんな生ぬるいままでいいのか?〟だそうだ。例によってこの編集者のオッサンは自民党叩きにばかり忙しく、日本の政治家が皆使い物にならない事はそのとおりだけども、「あの本出します」「この本出します」とさんざん触れ回った告知を何ひとつ実行に移そうともしない点は、自民党の政治家も論創社の国内ミステリ編集者もまるっきり一緒ではないか。

 

 

気に食わない対象には好き放題言っときながら、こいつのツイートや論創社に関して批判が向けられると〝どうぞ暖かい目で見て下さい〟などとホザいて逃げを打つ。〝こんな生ぬるいままでいいのか?〟とおっしゃるアンタのセリフ、そっくりそのままお返しする。




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