2020年6月18日木曜日

『小酒井不木探偵小説選』小酒井不木

2013年2月24日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創ミステリ叢書 第8巻
2004年7月発売



★★★★★  不木には異色の正統派少年探偵もの





不健全派スリラーの異名を持つ小酒井不木博士にもこんな別の顔がある。本書は少年科学探偵・塚原俊夫シリーズ13篇を収め、その内3篇「不思議の煙」「深夜の電話」「現場の写真」が単行本初収録。シリーズ第一作「紅色ダイヤ」の発表が大正13年だから、日本の探偵小説史の中でもかなりアーリー・デイズ。意外にも不木の創作探偵小説ではこれが処女作にあたる。

 

 

少年ものというと怪奇冒険調になりがちなのに、不木のジュブナイルは論理的解決を目指しているところに価値がある。「玉振時計の秘密」は倒叙スタイル、「紅色ダイヤ」「紫外線」「深夜の電話」は暗号、「頭蓋骨の秘密」は復顔術を扱って大人ものの不木らしさも垣間見せるなど、力の入った内容。

 

 

主人公の塚原俊夫は十二歳なのだが、犯罪知識が異常に詳しかったり、また年相応でない口調になったり、子供なのに名探偵然として大人の依頼者が頼ってきたりと、キャラ設定が too muchなのが悔やまれる。たぶんフリーマン作ソーンダイク博士の少年版にしたつもりだったのだろうけれども、数年後に登場する江戸川乱歩の小林芳雄と比べても万能すぎたのが、当時の年少読者に「少年探偵団」ほど喝采を浴びなかった理由ではなかろうか。

 

 

しかし現代の探偵小説好きな大人から見れば読者への挑戦文が所々入っていたり、謎解きの楽しさをキチンと見せようとする不木の姿勢には感服する。「不思議の煙」が海外のある作品と似ているのを当時の読者から指摘され、すぐに中絶してしまったことからも作者の律儀さが現れている(その指摘された元ネタであるローゼンハインの「空中殺人団」までも本書に同時収録されているからスゴイ)。

 

 

この塚原少年ものは早すぎた死の四ヶ月前まで書き続けられた不木唯一のシリーズ作品であり、決して軽視すべきではない。森下雨村と並んで日本探偵小説の父と呼ばれた男の情熱が偲ばれるはずだから。

 

 

 

(銀) 塚原俊夫少年シリーズのうちの数作を収めたものが2013年にパール文庫からも発売されたのだが、そのパール文庫のカバー装幀が内容と全く合っていない蒙昧なアニメ調で、実に不快だった。

 

 

初期の〈論創ミステリ叢書〉の本文テキストは文字がかなり大きく、文字数も今よりずっと少なかった。 不木の作品のほとんどは彼の没後すぐ刊行された改造社版『小酒井不木全集』全十七巻に収められているので、本書のように単行本初収録作がちょっとでも見つかると嬉しかったものだが、ゴツい未発見の不木創作小説はさすがにもう残ってはいないだろうなあ。