宮野叢子から宮野村子へと改名したのは1950年代半ばを過ぎた頃だと云われている。私は叢子と書くほうが好きなのだが、本巻のタイトルには宮野村子と記されているので、ここでは宮野村子名義で通して話を進める。ちなみに本名は津野コウという。
女流探偵小説家は数えるほどしかいないが、私ならこの人を推す。紅生姜子の名で処女作「柿の木」を発表したのは戦前の探偵小説同人誌『シュピオ』だが、活躍し始めたのは終戦で満洲から引き上げてからのこと。のちにデビューする仁木悦子あたりと比較しても、探偵小説の本来持つネットリとした肌合が魅力。作品の質にもムラがなく心理描写に長け、登場人物の境遇・性格に作者自身がかなり投影されている。女の情念、畏るべし。
この論創ミステリ叢書で一作家複数巻の場合『 Ⅱ 』よりも『 Ⅰ 』、すなわち執筆後期より前期が良作であるケースが多い。だが宮野村子の場合そんなことはなく、本書『 Ⅱ 』には1958年の傑作短篇集『紫苑屋敷の謎』をまるごと収録。よって力作たる中篇「鯉沼家の悲劇」を収録した『 Ⅰ 』も良いけど、あえて今回は『 Ⅱ 』を紹介した。他「愛憎の倫理」「ヘリオトロープ」「廃園の扉」等を含み、十八短篇のうち十一作が単行本初収録。
戦後「文学派」グループのひとりなのでトリック・メイカーみたいな味は薄いが、師匠格の木々高太郎よりも物語力は優秀。もともと七冊しか著書がなく、岩谷選書『鯉沼家の悲劇』をたまに安価で見かける以外は軒並み古書価が高い。風格のあるキラー長篇を1〜2作書いていれば、もうワンステップ成功できた筈。新たな現行本で宮野村子をもっと読みたい。
(銀) レビューの中でも書いているが、戦後の木々高太郎寄りな「文学派」の中ではかなり好きな作家であるわりに淡白な紹介をしてしまい反省している。もっと熱っぽく語ればよかった。一冊の中にボリュームのある長篇がドカッと鎮座していればレビューもその内容についてじっくり書きやすいのだけど、短篇が多くなると作品の数だけ言及する量がやたら増えるため、一纏めにあっさりした物言いで片付けざるをえなかった。今度彼女の新刊が出たなら、濃い感想を是非書きたい。