2020年9月1日火曜日

『戦前探偵小説四人集』米田三星/星田三平/水上呂理/羽志主水

2011年7月3日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

論創ミステリ叢書 第50巻
2011年6月発売


★★★★    論創ミステリ叢書、一時休止




企画として満点★5つの賛辞をしているこの論創ミステリ叢書。角川のようなテキスト改竄など一切無く、初出に基づき手間暇かけた作品発掘・校訂・解説に加え上質な製本。ミステリ界、いや出版界で何らかの賞を受けても全くおかしくない叢書なのだ。だが本書第50巻を迎え刊行休止、しばしのお別れ。非常に残念でならない。


 

今回は一人分の作品が半ダースに満たない幻の作家四名。過去にも徳富蘆花/三遊亭円朝の巻のような「これ、誰が読むんだ?」的な変化球があった。あれはきっとプロパー以外の新規読者を狙ったものだと思うが、今回は御得意様読者向けの変化球か。


 

この中で頭一つ抜けて良いのは小酒井不木の流派にある残酷医学の米田三星。「森下雨村さんと私」も非常に重要な随筆。次に「監獄部屋」「越後獅子」の羽志主水。水上呂理は木々高太郎に先んじたフロイト指向。星田三平は脱力ものが好きな人ならいいかも。フィロ・ヴァンスとカポネが闘争する「米国の戦慄」ボクシングもの「もだん・しんごう」とか何だかなぁ。



                   


 

マニアックな出版社の宿命か、今回の休止は売上・経営的立直しによるものなのだろう。
ならば本巻は同じ変化球でも何故売れる作家にしなかったのかな? 「諏訪未亡人」「吉祥天女の像」「越中島運転手殺し」「朝から夜中までの彼と彼女」「一九三二年」「三太郎とヘナ子」等を集めて『横溝正史連作集』とか。採らるるべき作家は守友恒/蒼社廉三/大河内常平などまだまだ数多といる。これだけの規模になってきたら江戸川乱歩と夢野久作の巻も欲しい。実際彼らの小説はあらかた発掘されており『江戸川乱歩名義代作集』とかなってしまいそうだが。


 

最近の傾向として『日本SF精神史』とかSF評論に良いものが多いのだから蘭郁二郎に南澤十七、そして海野十三、この辺のSF系探偵小説に光を当てる時期なのでは?大下宇陀児のSFものだってそう、昔から横田順彌らが指摘しているではないか。ともかく早い続巻のリリースを切望する。安心材料として編集サイドが「期を見て是非再開させたい」と言ってくれてるのが救い。


 

今後暫くは姉妹叢書となるのか、「少年探偵小説シリーズ」刊行が予定されている。現在判明しているラインナップは山田風太郎・鮎川哲也・高木彬光・仁木悦子。でもこれって日下三蔵が数年前からプレゼンしていた企画じゃないの? 少年ものに的を絞るのは良いと思う。ただ今のところ戦前の作家と作品は候補に挙がってないそうで・・・。




(銀) なんか笑ってしまうくらい論創ミステリ叢書に過度の信頼を寄せていたのがよくわかる文章。「生きている皮膚」「蜘蛛」「告げ口心臓」「血劇」「児を産む死人」の米田三星には、せめて短篇集一冊作れる数量の作品を残してほしかったと思う。



◆ 上記レビューのうち「こういうものを出してくれ」と当時言ってて実現したもの ◆

守友恒『守友恒探偵小説選』

蒼社廉三『殺人交響曲(ミステリ珍本全集11)』

大河内常平『大河内常平探偵小説選 Ⅰ・Ⅱ 』『九十九本の妖刀(ミステリ珍本全集⑦)』

渡辺啓助・温(訳)『ポー傑作集 江戸川乱歩名義訳』

蘭郁二郎『蘭郁二郎探偵小説選 Ⅰ・Ⅱ 』『地底大陸』

 

 

◆ いまだに新刊本で出ていないもの ◆

夢野久作『夢野久作探偵小説選』

→ これは将来も100%無いでしょうな。今、新全集も出てるってことで。

 

南澤十七『南澤十七探偵小説選』

海野十三『海野十三探偵小説選』


大下宇陀児のSFもの

→ 「空中国の大犯罪」を含むリウ・キノウ・シリーズ、

「湖底の怪都」「狂気ホテル」ほかネタは十分あるのに何故誰も出そうとしないのだろう?

(「湖底の怪都」は単行本化の際に「湖底の魔都」へ改題 )

 

横溝正史参加の連作小説集

→ 山田風太郎でさえ連作集は刊行されているというのに、

正史研究者の皆さんは毎年岡山のイベントでコスプレするのが小説よりも重要らしいので、

期待するだけ無駄か。