で、「雪割草」最終回の欠落していた部分が首尾よく判明し、今回の角川文庫版(以下、本書と略す)を用いて正しい文章へ戻すというので、しぶしぶ入手せざるをえなかった。但し初刊にはあった【校訂通則】【連載予告(作者の言葉)/初めて読まれる方に】、そして『新潟毎日新聞』~『新潟日日新聞』に矢島健三が描いた味わいのある【挿絵】、これらが省かれてしまっている。
●『京都日日新聞』 1940年6月11日~12月31日連載
●『九州日日新聞』 1940年10月7日~1941年7月15日連載
この新聞のみタイトルが「雪割草」でなく「愛馬召さるゝ日」にされていて、なぜ他の新聞より三~四ヶ月長い連載だったのかも、よく解らない。物語の大詰めで、馬が御国のため供出される重要なシーンがあり、先行紙『京都日日新聞』でその場面へ辿り着くのは『九州日日新聞』が連載を始めて既に二ヶ月経過した頃。まさか九州は雪が少ないから〝「雪割草」じゃなく別の題名にしてほしい〟なんて要望が『九州日日新聞』から出された・・・とは考えにくいけど、いずれにしろ「愛馬召さるゝ日」より「雪割草」のほうがはるかに、この物語の全体像を歪める事なく伝えうるタイトルであるのは、衆目の一致する意見だろう。
●『徳島毎日新聞』 1941年1月11日(?)~8月2日連載
●『新潟毎日新聞』→『新潟日日新聞』 1941年6月12日~12月29日連載
という具合に、現在判明している掲載紙はこれだけ。このように当時は未刊だった新聞小説の場合、後から手を加えられる可能性も考えてやはり後発テキストを優先すべきなのか、それとも、最初のテキスト(「雪割草」でいうと『京都日日新聞』)を重んじるほうが良いのか、判断が難しい。しかし悲しいかな、どの新聞も完全に保存されている訳ではなく、どうしても欠落した回が出てくる。そうなると、なるべく全ての回が揃っている新聞を使って、欠けている回がもし見つかったなら他紙テキストで補う、そういった手順を踏まざるをえない。
次に、今回の文庫化で最大の売りとなる〝初刊制作時欠落していた部分のテキスト確定〟だが、本書を見ても最終回のどこの部分が欠落していたのか解りやすいように記してないので、ちょいと長くなるが該当箇所をここに挙げて比べてみよう。本書には収録されていないが、初刊421頁『新潟日日新聞』マイクロフィルム複写図版を見ると、最終回の数行にわたる上部数文字がゴッソリ空白になっているのが確認できる。
【初刊】 407頁下段 「花の宴」(八)
【本書】 567頁 「花の宴」(八)