『無邪気な殺人鬼』に続く宮野村子未刊作品集第二弾。 改めて掲載誌一覧を見るとマイナー雑誌への発表多し。以下、カッコ内は初出年度。
①
「狂い咲き」(昭和24年)
『無邪気な殺人鬼』はなかなかエグい作が入っていたが、本書もいきなりヒステリーにまかせて猫を殺すという動物愛護にうるさい人が読んだら激怒しそうなシーンからスタート。 美津江は人並み外れた美しさを持ちながら、度が過ぎて傲慢かつ奇矯な女に育ってしまった。 後半の展開を読んでも果して読者は美津江にシンパシーを感じるだろうか。
タイトルに〝狂人〟とあっても、こちらにはまだ哀切がある。 終戦から三年後突然復員してきた正春だったが、酒に溺れてすっかり荒れた性格に変貌。 正春の母に仕えるユキは今に起こるかもしれない凶事に脅える。
③
「草の芽」(昭和27年)
探偵趣味は無いが『無邪気な殺人鬼』収録の「運命の使者」とも通じる温かさを覚える一篇。 主人公・お重は生活こそ困らねど、とっくに夫はこの世を去り息子・弘一も戦死。女の悦びとも縁遠くなっていたのだが、部屋を貸してほしいと突然やってきた老人に世話を焼きつつ愛情を 抱き始める。この頃宮野村子はまだ30代半ばの年齢だが孫に「お祖母ちゃん」と呼ばれるような初老女の面倒見の良い性分がよく書けている。
④
「山の里」(昭和31年)
若い時分命がけで愛していた妻が、自分が目をかけていた若い男と密通したため両者もろとも 射ち殺した過去があるという赤沼。酒場を辞め山中の村でそんな赤沼と一緒に住み始めた絹枝。 この作品を読んで、どっちに非があるとアナタは思いますか? ぶち殺される狐。ここでも動物に容赦ない宮野。
⑤
「蝋人形」(昭和33年)
地方新聞の部長をしている敬治は街娼ルミと出会う。まるで蝋人形のような冷やかさを持つ彼女を囲おうとして、戦争で不具者になってしまい人目を嫌って隠遁生活している旧友・勝也の家に匿わせる。男性探偵作家にはよくピグマリオン嗜好が見られるが、この作の蝋人形はどうなる?
⑥
「狂った罠」(昭和35年)
たいした趣向でもないけれど香りを用いた殺人トリック。そのためにシェパードが利用される。 動物に対して、もうやりたい放題じゃん。
⑦ 「雨の日」(昭和38年)
⑧ 「花の影」(昭和37年)
宮野村子には珍しく、この二作どちらにも広岡巡査というキャラクターが出てくる。 両方とも『別冊週刊漫画TIMES』という雑誌に発表したせいだろうか。 あと、「花の影」にも冒頭の「狂い咲き」にも〝種子〟という登場人物の名が見られるが、 特に関係はなさそう。この本、発表順に並べているのに「花の影」だけ「雨の日」より後に 載っているのはなんで?
⑨
「童女裸像」(未発表「宮野村子」名義)
これのみ中篇で、生原稿を高木彬光が預かったままになっていたもの。同じ未発表原稿でも 『無邪気な殺人鬼』収録の未発表作「死者を待つ」よりこちらのほうが良い。少年の眼を通して描かれる少女の透き通った裸体から匂い立つ青い性なんていうのはいつもの宮野には見られない題材。男性作家が書きそうな肉のエロティシズムとは少し違って、どちらかといったら精神的なな性表現。
戦争前とても可愛がってくれた深見義行のもとへ、愛する三重子を自分は殺してしまったかも しれないと頼ってきた淳。しかし弁護士であり少年時代の淳をよく知っている義行はどうしてもそれを信じる事ができない。三重子の死の真相は?淳の脳裏に今もハッキリ残っている子供の頃の清らかな三重子の裸体はなぜ汚れているというのか?折角余韻を残すエンディングで終わる のに本書のテキストを打ち込む人間がそこでまたミスをしており興醒め。⤵
淡くほのぼとの → (✖)
淡くほのぼのと → (〇)
(銀) 宮野村子の新刊が読めるのは嬉しいけれど、 前回の解説を書いたのが彩古(古書いろどり)で今回は野地嘉文。盛林堂書房の本だとこういう奴等に御鉢が回ってくるから嫌だ。解説執筆を頼むべき適任者はもっといるだろうが。
その解説の中で野地は宮野村子を酒豪扱いしているが、実際どうだったんだか。 その都度どういう状況にあって、宮野がどういう飲み方をしてたのかわからんし。 でも山田風太郎との一件(2020年7月7日当blog記事を見よ)を読む限り、 飲み過ぎて「抱いて」と絡んでくるような女性の事を酒豪とは普通言わんけどな。