普通の版元なら大いに同情を寄せてしかるべきトラブルなれど、なにせ相手は盛林堂。校正無視のムチャクチャなテキスト入力で作られた駄本を悪質なボッタクリ価格で売り捌く善渡爾宗衛/杉山淳/小野塚力らと手を組み、島田龍の左川ちか書籍刊行を妨害する、ブラック集団の総本山だ。気の毒だが、これまでやってきた悪行のバチが当たったとしか言いようがない。もっとも、あの手この手でさんざん泡銭を儲けてきたんだし、小野純一からすればこれっぽっちの出費など痛くも痒くもなかろうて。
「ダイヤにのびる手」「おしのはと時計」「姿なき使者」
「夢をまねく手」「ダイヤの謎」
収録作品数こそ多いとはいえ、それなりに読めるのは上記五篇程度。少女小説ながら「ダイヤにのびる手」「おしのはと時計」に出てくる日本の統治下にあった大連のように、エキゾティックな土地を舞台にしているものは味わいがあって良し。こんな風に外地・内地問わず、時代の空気感を積極的に取り込んでいたら、より奥行きのある作品が増えていたかもしれない。「夢をまねく手」は八回連載長篇のわりに枚数が少なく、各登場人物の性格付けも然程ハッキリしていないため、桃色真珠にまつわる島のエピソードしか頭に残らない。
ここから先は、ほぼ懸賞・コント・クイズものばかり。
「仲よし」「ママの家出」「清風荘事件」「モンコちゃん」「首なし人形事件」
「バラ盗み競争」「美しき毒蛇」「消えた真珠」「ゲレンデの銃声」「死の舞踏」
「月夜の砂山」「声なきことば」「少女とトラ」「天狗の木」「ベルの死」
「のどじまん大会の乱闘」「雪の上の足跡」
これらの他愛無い掌編群は軽く受け流しておけば十分。ただ、本書を読んでひとつ思ったことがある。十代読者を意識しつつ文学派グループの宮野村子が〝砂を袋に詰めて凶器にするような〟超初級トリック作品を書いたって、彼女の良さは全然活きてこない。もし宮野が腰を据えて少女小説を書くのならば、無理して謎解きの小細工に拘らずとも、変な喩えかもしれないが吉屋信子っぽいストーリーで攻めたほうが面白いものが出来たんじゃなかろうか。〝女の心情〟を描かせたら右に出る者はいないんだからさ。
あと目に付くのは70頁にも及ぶ森英俊の解説「宮野村子と戦後のブーム」。同人出版の巻末解説にしては異例のボリュームである。森も最近、即売会や「日本の古本屋」にて二束三文で拾ってきた状態の悪いレア本のヤフオク転売をやっていないようで、暇を持て余しがちだからこんなに長文の解説を書き下したのか?
(銀) 動物に対する宮野村子の冷酷さは今回も健在。「仲よし」に登場する大型シェパードのビルケはとんだ濡れ衣を着せられるけれど、それ以上ダメージを負わされることは無く、ハッピーエンドに終わって一安心。