❆ 盛林堂の宮野村子も巻数を重ね、さすがにクオリティが落ちていくのかなと思われたが、『無邪気な殺人鬼』『童女裸像』といったこれまでの三冊の中では一番良かったかもしれない。前二冊以上にバラエティ感に富み、探偵小説にうるさくないフツーの読者にも読み易くて、同人出版としては商品性高いんじゃないの?
❆ それでは今回も一作ずつチャッチャッと紹介していこう。まずは江戸川乱歩「心理試験」の前半部分をアダプトしたような「罠」。殺人をやり遂げた後の発覚部分はあっさり短め、宮野村子にしては感情移入を控え〝お仕事〟モードに入って書いたような一篇。
「黒眼鏡の貞女」は主人公の設定がユニークで、按摩さんのような〝めくら〟に近い視力しか目が見えない女の薄幸を書くのかと思ったら、彼女は執念深い仕返しを企んでいた。「罠」同様に雑誌発表時のページ数が限られていたからなのか、エンディングが慌ただしいのがちょっと。「怪奇探偵 運命の足音」は現代の商業出版なら腰が引けて収録を絶対見合わせるだろう。ポリコレ・クレーマーはこのタイトルに〝怪奇〟という単語が付いているだけで「けしからん!」とカッカするんだろうな。汚れなき愛情が描かれているのに。
主人公の〝あたし〟は姉・波奈子と共に喫茶店を経営しており、彼女達は弟代わりになりそうな可愛らしい少年給仕の章二を雇っている。ある日、仮面のように表情の無い顔をした奇妙な人物が店にやってきた。その男は「紫夫人」の怖ろしき使者だったのだ。これは〝人攫い〟というものがありがちだった昭和前半の香りが漂うスリラー。
妾の息子として生まれ育った伸夫少年。隣人の三千代は夫の不貞と冷たさに、鉛を飲むような毎日を送っている。そんな三千代は伸夫に自分の息苦しさを打ち明ける。「恐ろしき弱さ」というこの作品のタイトルはちょいと安直だったかも。
「幽霊の接吻」は幽霊話なのかイタズラなのか、微妙なオチをつけたハート・ウォーミングな読み物。「二つの遺書」はシリーズ・キャラクラーである広岡巡査はじめ警察の面々が温かさを見せるその分だけ余計に、交番に捨てられた幼児ミエ子の救われなさが際立ってくる。いや、探偵小説的な見所はそこじゃなくて轢死トリックなんだけども。最後の「あやかしの花」にも兇器隠蔽トリックが使われているが、この兇器は警察が現場を捜査に来たら、いくらなんでも見落としはしないだろ?と、ピュアな私は突っ込んでしまうのだった。