今回、桃源社版(昭和37年刊)に数篇増補した『みすてりい』、そして牧神社版(昭和51年刊)に数篇増補した『のすたるじあ』、この二冊を藤原編集室が編纂、創元推理文庫が同時発売する件につき、事前新刊情報を目にして感じたことは先日述べたとおり。
(下記のリンクをクリックして参照されたし)
『夢と秘密』城昌幸 ★★★★ ダブリが多い城昌幸の短篇集 (☜)
当Blogではこれまで城昌幸の記事をいくつかupしており、
桃源社版『みすてりい』は既に紹介済みなので、本日は『のすたるじあ』を軸に話を進めてゆきたい。
創元推理文庫版『のすたるじあ』収録内容
Ⅰ のすたるじあ
「大いなる者の戯れ」「ユラリゥム」「ラビリンス」「まぼろし」「A Fable」
「光彩ある絶望」「燭涙」「エルドラドオ」「美しい復讐」「復活の霊液」
「斬るということ」「蒸発」「哀れ」「郷愁」
解説 星新一
Ⅱ その他の短篇
「今様百物語」「シャンプオオル氏事件の顛末」「東方見聞」「神ぞ知食す」
「死人に口なし」「吸血鬼」「書狂」「他の一人」「面白い話」「三行広告」
「間接殺人」「うら表」「憂愁の人」「夢見る」「怪談京土産」「白夢」
「2+2=0」「はかなさ」
日本の探偵小説でも城昌幸や渡辺温など、掌編小説形式を用いた作品が高く評価されている作家はいるが、「ショートショート」という呼び名から真っ先に連想するのはやっぱり星新一かな。高校の時、同じクラスの奴が星の何かの文庫を貸してくれたのだけど、その書名を覚えていないぐらいそっち方面にはとんと疎く、戦後SF系「ショートショート」といったらシュールな世界観/ブラック・ユーモアを頭に思い浮かべる程度の知識しかない私だ。
本書の中で牧神社版『のすたるじあ』に該当する【 Ⅰ のすたるじあ】のページ数は全体の半分にも満たず、全345頁のうち127頁。冒頭の「大いなる者の戯れ」「ユラリゥム」は筋らしい筋も無く詩的な空想世界の表出。できればどんなに短くとも、物語性を提示してくれたほうが自分にはフィットするね。そういえば昔、知人と交わした雑談の中で〝『のすたるじあ』って城昌幸が亡くなる直前に出した本だから、入ってるのは晩年の作品なんだろ?〟とその相手が口にした言葉に釣られて、私もそう思い込んでいる部分があった。ところが巻末にある初出データを見てみたら意外にそうでもなく、戦前に発表されたものも多く含まれている。
「斬るということ」は江戸時代が舞台(タイムスリップではない)。星新一は初刊時の解説にて(本書124~127頁)〝城さんの作風のはばの広さを示しており、この名人芸にはただただ感心させられる〟と持ち上げているものの、逆にこれだけ浮いてしまってマイナスな意味での違和感しか残らない。どうも【 Ⅰ のすたるじあ】は都会的だったりスタイリッシュなテイストが控えめな作品が並んでいる印象を受けるし、文庫増補分にあたる【 Ⅱ その他の短篇】に属している作品のほうに良さを感じる。
【 Ⅱ その他の短篇】には単行本初収録作も含まれ、「今様百物語」「うら表」「夢見る」「白夢」「2+2=0」「はかなさ」がそれにあたる。城昌幸作品にも上段で述べた「ショートショート」の代名詞みたいなシュールな世界観/ブラック・ユーモア的要素は点在しているが、個人的に本書の中で最も惹かれたのは、七頁に亘りひとつの改行も無く文字を連ねながら祇園で出会った舞妓への慕情を描く「怪談京土産」。〝【 Ⅰ のすたるじあ】には都会的/スタイリッシュな味が足りない〟と言いつつ、酒を嗜む壮年男性のウエットなストーリーを推すのもなんか矛盾しているように思われそうだけど、これは好き。
ほんの僅かな枚数の中で、戦時下における舞妓との出会い、国策によって彼女達の仕事が許されなくなってゆく様子、敗戦後の奇妙な再会まで、旅先で出会った若い京おんなへの思慕がコンパクトな流れで綴られているのが素晴らしい。
この度刊行された文庫版『みすてりい』『のすたるじあ』共に初出一覧データが詳しく記されていて、それぞれの短篇が作者生前のどの単行本に収録されていたかも一目で分かる。『のすたるじあ』の巻末にある夕木春央という人の解説は一読者の思い入れ吐露にすぎないが、長山靖生の『みすてりい』解説はベテランらしい的確な文章だし、城の改稿癖にも言及。今回の文庫二冊で初めて城昌幸に接する方は、何はなくともまず『みすてりい』からどうぞ。
(銀) カバーデザインの面でも『のすたるじあ』より『みすてりい』のほうが断然出来は上。創元推理文庫は四年前『菖蒲狂い~若さま侍捕物手帖ミステリ傑作選』を出しているとはいえ、果して「若さま侍」の固定客が本書のような城のショートショートに興味を持つだろうか?またその反対に、ショートショート探偵小説を好む人達は「若さま侍」を手に取ってくれるかな?私の見立てでは、この二つの客層は殆ど分離しているような気がする。
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