2015年8月9日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿
光文社文庫 縄田一男(編)
2015年8月発売
★★★★ 横溝正史・高木彬光ら探偵作家も参戦
十手持ちの岡っ引き・伝七親分の活躍譚。伝七の作者は陣出達朗だと思われがちだが、実際には多くの作家が昭和20~30年代に入れ替わり立ち替わり執筆している。その総数は二百話を超えると云われるけれども、これまで単行本化されたのはそのごく一部分に過ぎない。本書は1992年に同じ光文社文庫から刊行された傑作選『競作黒門町伝七捕物帳』の書名を変更、縄田一男が解説を加筆訂正した新装版だ。旧版がわりと入手難だったらしく、初めて手にする人もいるかもしれないので収録話を記しておく。
▲ 「櫛」 山手樹一郎
▲ 「酒樽の謎」 村上元三
▲ 「十本の指」 高木彬光
▲ 「通り魔」 横溝正史
▲ 「くちなし懺悔」 角田喜久雄
▲ 「殺し屋雪明り」 城昌幸
▲ 「斬られた幽霊」 野村胡堂
▲ 「餘燼」 戸川貞雄
▲ 「乳を刺す」 邦枝完二
横溝正史でいえば人形佐七の原型になるものが伝七ものでも数篇書かれており、それらは本書の翌年に出た『横溝正史探偵小説選 Ⅳ』に収められた。また伝七親分譚が生まれたきっかけは探偵作家クラブと捕物作家クラブの親密な交流の成果でもある。
横溝・高木・角田・城以外に、水谷準・九鬼
澹・島田一男・大倉燁子が書いているエピソードも存在すると聞く。探偵作家の書いた捕物帳として本書を買った人からすると、前述の探偵作家が書いたものを全て収めた『黒門町伝七』アンソロジーも縄田一男に出してほしいだろう。各話の出来の良し悪しもあるだろうし、どれぐらい需要があるのか読めないから、なにかと難しいかもしれないが・・・。
こっそり嬉しかった復刊企画ではあるけれど、帯のキャッチコピー「銭形平次に桃太郎侍に金田一耕助や神津恭介もみんなが愛した伝七親分」って何だ、それ?
事情が解らない人は本書を店頭で手に取り、「時代ものと昭和の名探偵ってどういうこと?」と混乱を招くかも。もうちょっと頭を使って気のきいたキャッチコピーにしないと。
(銀) 今の時代小説畑の流れだと、伝七捕物帳をもっと読みたければ POD の捕物出版へ熱いリクエストを送るのが一番だろう。でも伝七は参加している作家が多いので権利をクリアさせるのが面倒そう。捕物出版、採算取れているぐらい売れてるといいな。