作家・城昌幸には捕物帖の顔、詩人の顔、探偵小説の顔がある。城の探偵小説は幻想的な短篇群の一部のみが再発され、「金紅樹の秘密」「死者の殺人」といった長篇は話題に上る事もない。特にあまり知られていないこの「婦人警官捕物帖」という作品は城のキャリアの中でも一際忘れ去られてしまった、いつもの彼の探偵小説とは肌合いがかなり異なる軽めの読み物。
「黑い手帳」「女性の冒險」「奇妙な戀」「誘惑」
「色ッぽい女」「不良少女」「底無し沼」
「戀の命」「指紋の謎」「大きな幸福」
(テキストは二段組/旧仮名遣い)
本書は10のエピソードから構成され、基本的には一話完結だが全体を通して連続性が持たされている。いわば戦前の木々高太郎「風水渙」みたいなものだと思って頂ければよい。若い婦人警官の久子はコンビを組む照江と共に新橋あたりの省線(今のJR)に暗躍する満員電車の掏摸を検挙するのが日々の仕事。彼女の父は警察部長まで勤めた人だったが数年前にこの世を去り、家族は母と弟の三人暮らし。そこにもう一名遠い親類に当たり、父が昔面倒を見ていて今は警部補にまで出世したナイスガイの小野寺(独身)も同居している。
初めて読んだ時には最初「またスリかぁ、どうして日本人はこうもスリの探偵小説が好きなのかねえ」と思った。
でも事件は単純なスリばかりでなく、麻薬を密輸入する暴力団にエッチな事をされそうになったり、いたいけな少女をやくざな道へ引きずり込もうとする不良に久子が撃たれそうになったり、夫が外地に行ったまま帰ってこない淋しさから闇屋のチンピラ・ブローカーに弄ばれる女を救おうとしたり、マンネリに陥らぬよう考えながら書いているのはよく解る。「色ッぽい女」のどんでん返しや「戀の命」のちょっとしたトリック(?)も、全体にメリハリが利いて良い効果が出ている。
(銀) この文庫は古本1,000円で買ったのだが、よく考えると当時はイカモノ小説とでも誤解され売れなかったり処分されてしまったのか、古書市場であまり見かけない。こういうのは何冊も読まされると飽きるので、文庫一冊ならばちょうど適量。城昌幸もそういえば論創ミステリ叢書でスルーされている作家だったな。平成以降に刊行された『怪奇製造人』(探偵クラブ/国書刊行会)と『みすてりい』(怪奇探偵小説傑作選4/ちくま文庫)に収録されていない探偵小説は此の儘ほったらかし?本作とか『美貌術師』とか『ひと夜の情熱』とか、その他モロモロさあ。