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小樽文學舎
2024年10月発売
★★★ 虫太郎による報国の短歌?
2024年10月7日から10月19日まで、神保町の東京古書会館にて「『黒死館殺人事件』連載90年記念 小栗虫太郎展」が開催中。本日取り上げるのは、その企画展の販売物である図録『小栗虫太郎展』。遺族の方が近頃「小栗虫太郎公式サイト」というHPを立ち上げたり、SNSを始めたのは知っていたが、この図録でも小栗光(虫太郎三男夫人)そして川舩通子(虫太郎四女)の御二方が虫太郎展開催に対して感謝の言葉を述べている。
「完全犯罪」「白蟻」「黒死館殺人事件」の原稿/「海螺斎沿海州先占記」の創作メモ/日記/茂田井茂「退屈画帳」/小栗虫太郎装幀美術館などがカラー図版で載っている中、かごしま近代文学館が提供したクアラルンプールにおける虫太郎のスナップ二葉が目に留まる。昭和16年の秋から翌17年の暮まで報道班員としてマライに赴任していた時に撮影されたもので、元来虫太郎の写真は残存数が少なく、南方での様子が垣間見れるのは有難い。
虫太郎と一緒に写っている海音寺潮五郎は鹿児島の出身。かごしま近代文学館は潮五郎関連資料を相当数所蔵していると思われ、旧い潮五郎の写真をチェックしていて虫太郎の存在に気付き、それで今回の図録に掲載する機会が得られたってことか。皇軍の傲慢さに怒りを覚えた虫太郎は東京に戻って「海峡天地會」を書くのだが、同じマライ組の一員であった潮五郎もまた、日本はこの先どうなってしまうのか、強い不安を抱いていたようだ。
もう一つ「これは何だろう?」と思ったのが、戦前の歌誌『青空』昭和16年1月号に発見された小栗虫太郎名義の短歌「佳き秋に」だ。今回の東京古書会館に先行して、2022年12月に「小栗虫太郎展」を開催した小樽文学館の館長・亀井志乃も判断しかねているとおり、北海道の歌誌へ唐突に虫太郎が短歌を投稿するとはちょっと考えにくい。どこぞの誰かが〝小栗虫太郎〟の名を無断で使用した?参考までにその短歌、下の画像をクリック拡大して見て頂きたい。
『青空』昭和16年1月号は「短歌報国の春」という特集を組んでいるらしく、この「佳き秋に」も皇紀二千六百年を高らかにcelebrateする内容である。戦前の探偵作家と北海道を繋ぐパイプとなると、水谷準の存在が思い浮かぶ。準の人脈が関係しているのだろうか?虫太郎は裕仁天皇を敬愛していたというし、このような短歌を作る訳がないとは言い切れないけれども、それにしたってあまりに馬鹿正直すぎる報国短歌で、とても虫太郎本人の作とは思えないなあ。
小栗とみ(虫太郎夫人)や小栗宣治(虫太郎三男)による家族のエッセイ、江戸川乱歩・横溝正史・渡辺啓助・海野十三・中井英夫・澁澤龍彦・権田萬治らが執筆した回想・評論など、図録にしてはヴィジュアルよりも活字のほうが多い印象。お値段は2,000円なり。
(銀) この図録に載っている各人の文章のうち新規の書き下ろしは僅かしかないが、これまで雑誌や月報へ発表されたままだったものが纏めて読める利点もある。
ネットを使って情報発信するようになった小栗家の方々、探偵小説の業界はハイエナみたいな奴らが多く、「X」にて熱烈なファンなどと名乗り狡猾に擦り寄ってくるので、そんな連中の口車に乗せられないよう、くれぐれも用心して下さいませ。
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