「幽霊一家」(『少年少女譚海』昭和25年12月号)
敗戦後の荒廃で自分の家族の住む家が無くて困っている壮吉は、気になる空家があったのでその家主に訊ねてみると、「あそこには幽霊が住んでいる」と家主の太田は言う。そんな筈はないと信じる壮吉は太田に交渉し、二、三日住まわせてもらうことにした。ただの怪談話か、それなりのヒネリがあるのか、読んで確かめて頂きたい。
「黒聖母島の秘密」(『少年少女譚海』昭和26年1月号)
孤児・雪村ミサ子は怪しい一味に捕まり、ブラック・マリヤという謎の孤島に連れてゆかれる。どうもその理由というのが、ミサ子は舞踏家・牧園先生の弟子なのだが、映画「狂える白鳥」で主役を務める女優・水島珊瑚とミサ子がそっくりな上、その映画で十分ばかりのバレエ・シーンを珊瑚の代りにミサ子が演じたため、賊はミサ子を珊瑚と間違えて誘拐したようなのだ。SF的なガジェットも交えた、秘密結社の企み。
「氷河の囚人」(『少年少女譚海』昭和26年12月号)
渡辺啓助の大人もの小説における特性をジュブナイルでも表現するとしたら、やはり冒険ストーリーの流れの中に〝秘境〟をもってくるのが一番自然な感じはする。
「黒い獣」(『少年少女譚海』昭和26年4~7月号)
横浜に停泊していた貨物船アルハンプラ号から、コンゴ産の大ゴリラ・イロンクベが脱走する事件が発生した。イロンクベは海に落ちて死んだと思われていたが、少年給仕・正一の勤める愛東貿易会社のビルに出現。女中の玉ちゃんがむごたらしく殺され、片や社長令嬢・雪子は姿を消してしまう。ここで私立探偵・一本木万助登場。
四回連載なだけでなく、ポオというより日本の超有名探偵作家の或る失敗作からの影響が感じられたりして、なかなか話が凝っているのでアレコレ紹介したいところだけれども、ちょっとでもネタを割ってしまうとこれから読む人が興醒めになるし、何も書くことができん。
「人喰魚」(『少年少女譚海』昭和27年11月号)
一本木万助は時折海岸を訪れて、水泳や釣りをやるらしい。日本の海にいるとは思えない熱帯産のフグ=ハリセンボンが呑み込んでいたのは水族館長・星木先生のカフスボタンだけではなく、黒田刑事のガラスの眼玉(偽眼!)。犬が犠牲になったり、なかなか演出がエグいのは発表誌が『少年少女譚海』というのもあるかも。
「シンデレラの片足」(『少年少女譚海』昭和28年12月号)
本作に出てくる中学生の三吉、「黒聖母島の秘密」にてミサ子を救出するため孤島へ向かう戦災孤児・春田三吉、そして「人喰魚」の三吉。物語の主役となる少年にたびたび〝三吉〟という名前が使われているが、どうも同一人物ではなさそう。焼場に少年を閉じ込め可燃性の高い状況下でガソリンを天井からポトポト滴らせる責苦は、子供の読者には若干ハードとはいえアイディアは悪くない。
「失われた黒ねこ」(『高校コース』昭和32年1月号)
四度目の三吉、今度は大森三吉という。ほんの少しだけど密室設定あり(ホントか?)。ジュブナイルなら周りからそれほど厳しい目で見られないからか、大人ものだと目立たないロジカルなプロットで啓助が遊んでいる気配も感じられる。それなりに・・・だけどね。
「姿なき訪問者」(『中学生の友・三年』昭和32年4~10月号)
半年に亘る連載。さらにリリー製薬ビルで必ず各階にひとり発生してゆく殺しの犯人は誰か?という興味。物語の中では非常に粗末な施設といえども、茨城県東海村に原子力研究所が建てられている設定を昭和32年のジュブナイルで描いているのは、(のちの東日本大震災の事故を思い起こせば)社会への警告的先見性があって、賞賛に値する。ガイガー・カウンターで放射能を計測するシーンなんてシャレにならないほどシリアス。
「第三の容疑者 熱帯魚殺人事件」(『冒険王』昭和32年7月号)
短いながらも、啓助にしては意外な犯人を描いている。
「夜歩く銀仮面」(『冒険王』昭和32年9月号)
江戸川乱歩「黄金仮面」などの華やかな仮面キャラとは違い、銀仮面氏の動機なり素性は、これがもし大人ものだったら、令和の現在よりむしろ当時の昭和の頃のほうが「✕✕被害者を冒涜している!」などとやいのやいの言われそうなヤバさがあるかも。
「かえる男時代」(『中学生の友・二年』昭和33年8月号~昭和34年1月号)
「地中海であった話 海底の魔女」(『冒険王』昭和34年6月号)
7頁の掌編。
『白百合の君』西條八十 ★★★★ 少女探偵小説と呼べるかどうか (☜)
『黑バラの怪人』武田武彦 ★★★★★ 氷上を滑りくる生首 (☜)