2023年11月28日火曜日

『世田谷文学館資料目録1/横溝正史旧蔵資料』

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世田谷文学館
2004年3月発売




★★★★  『江戸川乱歩~横溝正史往復書簡集』の話は
                    露と消えたのか?




▬ 江戸川乱歩が池袋の自宅に遺した旧蔵書のうち探偵小説に関するものだけを目録化、国内外問わずどんな本があの土蔵の中にあるのかを一目でわかるよう編集せしめた『江戸川乱歩探偵小説蔵書目録/幻影の蔵』が2002年東京書籍からリリースされたのを意識してか、その二年後には横溝正史の旧蔵資料を管理している世田谷文学館が資料目録『横溝正史旧蔵資料』を制作・発売している。

 

 

函入りハードカバー仕様だった『幻影の蔵』とは異なり『横溝正史旧蔵資料』はシンプルな作りだが、一応監修者として新保博久をクレジット。なにより『幻影の蔵』は新保博久・山前譲対談に何の関係も無い喜国雅彦がでしゃばって参加してたり、本のデザインまで喜国にやらせていたものだから全然印象がよくなかった。本書『横溝正史旧蔵資料』にはそのような目障りな要素が無いのが嬉しい。

 

 

乱歩邸土蔵に収納されている蔵書をすべて目録化するとなるととんでもない事になるので、『幻影の蔵』は探偵小説関連図書のみに限定していたけれども、正史蔵書は乱歩ほど膨大な量ではないから雑誌のたぐいや原稿、あるいは乱歩から送られた正史宛て書簡、西田政治からの正史宛て書簡なんかも目録化されている。

 

 

 

 

▬ 本日のテーマは横溝正史の旧蔵書にどんな特徴が見られるのか・・・ではない。この『横溝正史旧蔵資料』、初回限定350部には「横溝正史宛て江戸川乱歩書簡」CD-ROMが付属、二十三通の書簡が画像だけでなく文章翻刻もされており、本書の価値を更に高めている。それはそれとして、ネット上にてずっと私が書いてきた文章を読んで下さっている方ならば、何年も前から『江戸川乱歩~横溝正史往復書簡集』を待ち望んでいると何度も私がアピールしてきた事を記憶されているかもしれない。
 

 

乱歩と正史がやりとりした書簡の数々は本書付属のCD-ROMをはじめ、何度か小出しに発表されてきた。二人の書簡で現在残存確認が取れている正確なトータル数は何通になるのか、私は突き止めていない。本書CD-ROM以外で主だった乱歩~正史書簡掲載メディアとなると『探偵小説五十年』の「乱歩書簡集」など数点あるが、ここで注目したいのは2003年のKAWADE夢ムック『江戸川乱歩/誰もが憧れた少年探偵団』にて読むことができる「横溝正史宛て江戸川乱歩書簡」。

 

 

そのページで注釈・解題を書いているのも新保博久。彼によると、あの時期新たに発見された正史宛て乱歩書簡複写箋は三十四通ぶんあり、そのうち八通ぶんの翻刻が許可を得て披露されていた。新保は『乱歩~正史往復書簡集』とは言っていないものの、新たに発見された正史宛て乱歩書簡複写箋三十四通ぶんは〝いずれ東京創元社から刊行される予定〟と明言。となれば前後の成り行きからしても当然、東京創元社から刊行予定だというその本は乱歩~正史間で取り交わされた書簡で現存しているものを全て集成した往復書簡集になる筈だと考えてしまうのは無理からぬ話ではあるまいか?



 

 

▬ 既に二十年経過・・・・『江戸川乱歩~横溝正史往復書簡集』が刊行される話はどうなってしまったのだろう?ポロっと口にした新保もその後、この件に関して何も語っているようには見えないし、こういった企画には積極的な戸川安宣もまたしかり。いったい何が障害になっているのか知りたくて、以前或るふたりの方(本日の記事で名前が挙がっている人に非ず)に訊いてみたことがある。そのうちのお一人は〝刊行実現を非常に望んではいるけれど、超強力コンテンツだけに東京創元社が権利を手放す可能性はまずなかろう〟と仰られた。

 

 

話を総合する限り、鍵を握っているのは東京創元社のようだが、それにしてもいったいどのような理由でこの企画をほったらかしにしているのか・・・やる気がないのなら他の版元(例えば藍峯舎)に任せればいいのに。本一冊ぶん構成できるだけの書簡がありながら、書籍化に向けて誰も動こうとしないのは(動こうにもヘゲモニーに邪魔され動けないのかもしれぬ)納得がいかない。近頃『貼雑年譜』データ版が途方もない金額でリリースされたものの、大枚払っていつ何時突然閲覧できなくなるかもしれないデータ資料なんぞより、紙の書籍として『江戸川乱歩~横溝正史往復書簡集』を後世に残すほうが遥かに重要だと思いませんか?

 

 

 

 

(銀) 私以外で『江戸川乱歩~横溝正史往復書簡集』刊行を望む旨の発言をした人は、『新青年』研究会メンバーの村上裕徳ぐらいしか思い付かない。探偵小説関連の良書を作ることができる手練れの面々も年々高齢化し、かといって若手で有望そうな人材も出てこないし、このまま企画倒れに終わってしまったら探偵小説界の大損失となるのは火を見るより明らかだと言わざるを得ない。




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