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光風社
1963年1月発売
★★ ポルノ小説へ転向した男
「黒い巨人の踊り」
「突然、マリコは消えた」
「殺されるまで」
「殺してやる」
「夜の顔ぶれ」
上記五短篇のいくつかは『宝石』に発表。本書は江戸川乱歩へ献呈されたようで、『江戸川乱歩探偵小説蔵書目録/幻影の蔵』を開くと、乱歩蔵書一覧の中に署名為書の入った『夜の顔ぶれ』を見つけることができる。
このように松本孝も最初のうちはミステリ寄りのフィールドで作家稼業を始め、「夜の顔ぶれ」は昭和35年直木賞候補にノミネートされたが、すぐポルノ小説の世界へ方向転換、最終的に彼の著書の殆どはそっち系のジャンルで占められている。
狩久のようにソフィストケイトされ、陶酔感のあるエロティック・ミステリーなら歓迎するけれども、パンパンの棲息する薄汚れた新宿を舞台にしていて、SEXと暴力の印象が強いところは大河内常平や朝山蜻一の亜流にしか映らない。なんでもいいから、この人ならでは・・・と呼べるような要素や、名刺代わりになる作品が他にひとつでも存在していれば、本書に入っている短篇を受け入れる気持も起きてくるのだが。
戦争に敗れ、すさみきった東京を活写する風俗ミステリとなると時に陰惨、時には貧しく醜い。「殺されるまで」は連れこみホテルの一室で扼殺された女(膣内には多量の精液が残留)をめぐり、一人ずつ関係者の証言を連ねてゆく構成なので、なにかしら作者の背負い投げを望んでしまうけれど、さしたるヒネリも無く終わってしまう。「夜の顔ぶれ」のみユーモア色があってガス抜きにはなる。
巻末の〈あとがき〉で松本は「今後もいろいろなかたちと題材で、大都会の暗黒面(ダークサイド)を描いてゆきたい」と語っている。そんな方向性が、転身後のポルノ小説でも継続しているのか、私は知らない。
(銀) 短篇「夜の顔ぶれ」は直木賞候補になったと先程書いたが、審査員・木々高太郎は28歳松本孝の小説を「あまりつくりごとが多いようであるが、主人公の一方に徹底した考え方は、つくりごとでなくて書けると思うが、どうか。」と述べ、六段階評価(◎>❍>☐>△>■>◍)のうち、下から二番目の■(中立的な反対、賛成・態度不明から最終的に反対、長所も認めるが結果的に反対)と評した。
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