2020年10月8日木曜日

『横溝正史全小説案内』

2012年10月27日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

洋泉社  昭和探偵小説研究会(編)
2012年10月発売



★★★    横溝正史関連本には
       どうしてプロフェッショナルなものが無いのか



江戸川乱歩には『江戸川乱歩リファレンスブック』『子不語の夢』『江戸川乱歩アルバム』『江戸川乱歩 〜 評論と研究』『乱歩おじさん』『江戸川乱歩 日本探偵小説事典』『乱歩と東京』といった優れた評論書が多数あるのに、どうして横溝正史にはそれに匹敵するような本が皆無なのだろう?

 

 

本書を読んでも判るとおり、乱歩・夢野久作と比べ正史の作品数ははるかに多い。体系的に編纂された完全版全集が未だにないのもそこに一因があるにせよ、正史の関連本が映像・サブカル寄りばかりなのはいかがなものか。そういうものがあってもいいが、小説こそが最も素晴らしいのに本末転倒ではないのか? 


                    


そういう意味で本書は、正史にこれだけの小説世界が広がっていることを一般層にも知ってもらう良いキッカケになるかもしれないが、リファレンス本としての完成度を言えば中途半端な感は否めない。『案内』と題してもごく一部の代表作のみの概況しか付けないのなら、いっそ随筆等の非小説も含めた詳細な全執筆・著書データに徹底した方がよかった。

 

 

珍しく由利麟太郎の初出挿絵等も見せる巻頭カラー頁の着眼点は悪くない。角川に執着してないのも好印象。巻末で中絶作「黒い蝶」未発表作「夜光蟲」「石膏魔」を読めるのも嬉しい。でも作品リストを各ジャンルに分けたのはいいが、なんで〈短篇もの〉だけは発表順記載じゃなくてあいうえお順なのか? 永久保存版と謳うのならば、もっとマニアックで重厚な横溝本にしてほしかった。

 

                     



やっぱり作り手が金田一耕助だけ詳しいとかじゃ良い横溝本は出来ない。『横溝正史読本』小林信彦のように、広く日本の探偵小説や正史が親しんだ海外作品にまで精通していないと。ファン有志でも優秀な人材ならいいけれど、乱歩本のような良書を作りたいなら、探偵小説にオールマイティな識者の尽力がどうしても必要だ。

 

 



(銀) この手の本が制作されても、探偵小説の愛読者ではない単なる横溝オタがノン・シリーズの探偵ものや時代ものといった小説に関心を示さないのは十年一日の如し。彼らが好きなのは横溝正史の小説ではなくて映像化された金田一耕助に過ぎず、BSで要潤主演による人形佐七の連ドラがオンエアされたり『完本人形佐七捕物帳』の配本が始まろうとも、ピクリとも反応しないからな。

                     


ところでハロウィーンやパーティーは別として、コスプレに没頭する人種を見ると私は90年代の前半に渋谷で見た光景が頭をよぎる。

 


宇田川町/井の頭通り沿いのビル地下に「まんだらけ渋谷店」がopenした頃の話だ。初期の「まんだらけ」は何でも売っている今と違って、店名のとおりヴィンテージな漫画本ばかり並んでいたように記憶する。自分自身はCD/レコードばかり買っていた時期なので、タワーレコード・HMV・レコファン・Disk Union・シスコ等が行きつけだったが、話のタネに「まんだらけ」にも足を運んだことがあって。

 

 

その店内の一角で、なにかのキャラにコスプレした店員が鬱陶しいアニソンに合わせてヘラヘラ踊っている。そのイッちゃってる目つきと表情がたまらなくキモくて、ろくに商品を見もせず、即座に私は外へ出た。その後喫茶店に入りコーヒーを飲みながら「なんだったんだろう・・・・あの不快感は?」と考えたのだが、タバコ一本喫い終わるまでもなく、すぐに思い当たった。

 

 

「まんだらけ」のコスプレ店員をキモいと感じた理由は、その少し前に〈真理党〉などと称して都内のあちこちで選挙活動をする際に、「 ♪ ショ~コ~ショ~コ~、ショコショコショ~コ~、ア・サ・ハ・ラ・ショ~コ~」という麻原彰晃の珍妙な歌に合わせて、まるで魂を抜かれたかのように踊っていたオウム信者と全く同じ空気を発していたからだ。以来、オタク人種のコスプレには嫌悪感しか浮かんでこない。

                     


岡山の金田一耕助コスプレ・イベントってまだやってるんだってね。今年(2020年)はコロナのおかげで開催されないと聞いたが、ご高齢なのに遠方まで駆り出される横溝家の方々が本当に気の毒。乱歩の読者にはこんなことやろうとする人がいなくてヨカッタ。