江戸川乱歩には『江戸川乱歩リファレンスブック』『子不語の夢』『江戸川乱歩アルバム』『江戸川乱歩 〜 評論と研究』『乱歩おじさん』『江戸川乱歩 日本探偵小説事典』『乱歩と東京』といった優れた評論書が多数あるのに、どうして横溝正史にはそれに匹敵するような本が皆無なのだろう?
本書を読んでも判るとおり、乱歩・夢野久作と比べ正史の作品数ははるかに多い。体系的に編纂された完全版全集が未だにないのもそこに一因があるにせよ、正史の関連本が映像・サブカル寄りばかりなのはいかがなものか。そういうものがあってもいいが、小説こそが最も素晴らしいのに本末転倒ではないのか?
そういう意味で本書は、正史にこれだけの小説世界が広がっていることを一般層にも知ってもらう良いキッカケになるかもしれないが、リファレンス本としての完成度を言えば中途半端な感は否めない。『案内』と題してもごく一部の代表作のみの概況しか付けないのなら、いっそ随筆等の非小説も含めた詳細な全執筆・著書データに徹底した方がよかった。
珍しく由利麟太郎の初出挿絵等も見せる巻頭カラー頁の着眼点は悪くない。角川に執着してないのも好印象。巻末で中絶作「黒い蝶」未発表作「夜光蟲」「石膏魔」を読めるのも嬉しい。でも作品リストを各ジャンルに分けたのはいいが、なんで〈短篇もの〉だけは発表順記載じゃなくてあいうえお順なのか? 永久保存版と謳うのならば、もっとマニアックで重厚な横溝本にしてほしかった。
ところでハロウィーンやパーティーは別として、コスプレに没頭する人種を見ると私は90年代の前半に渋谷で見た光景が頭をよぎる。
宇田川町/井の頭通り沿いのビル地下に「まんだらけ渋谷店」がopenした頃の話だ。初期の「まんだらけ」は何でも売っている今と違って、店名のとおりヴィンテージな漫画本ばかり並んでいたように記憶する。自分自身はCD/レコードばかり買っていた時期なので、タワーレコード・HMV・レコファン・Disk Union・シスコ等が行きつけだったが、話のタネに「まんだらけ」にも足を運んだことがあって。
その店内の一角で、なにかのキャラにコスプレした店員が鬱陶しいアニソンに合わせてヘラヘラ踊っている。そのイッちゃってる目つきと表情がたまらなくキモくて、ろくに商品を見もせず、即座に私は外へ出た。その後喫茶店に入りコーヒーを飲みながら「なんだったんだろう・・・・あの不快感は?」と考えたのだが、タバコ一本喫い終わるまでもなく、すぐに思い当たった。