2023年6月29日木曜日

『占領下の文壇作家と児童文学』根本正義

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高文堂出版社
2005年7月発売



★★★★   完全解明できそうもない書誌データを追った労作




 戦前の日本は空襲を受け刊行物があらかた灰燼と化し、敗戦直後の混乱期になると大人もの子供もの関係なく粗末な仙花紙本が濫造されたため未来に残す正確な出版記録など望むべくもなかった。だから昭和前期にはどんなジュブナイル探偵小説本が出ていたのか、その全貌を100%完全に解明するのはまず不可能。せめて我々は残存する単行本や紙資料を基に実態を追い続けるしかない。本書は日本が米国の占領下にあった時代の少年少女小説単行本情報を可能な限り調査した一冊である。但し書影の数は限られており、ヴィジュアル面まで期待してはいけない。




▰ Ⅰ(第一章)は少年少女小説の単行本を出していた出版社を、版元ごとに代表作となるものをリストアップしながら見せてゆく。まずは九十社前後にも及ぶマイナー出版社の数々を、あいうえお順に掲載。探偵小説に関係した出版社となると、湘南書房/愛育社/まひる書房/新浪漫社浅田書店/労働文化社/ともだち社/むさし書房/PHP出版社/世界社/六桜社あたりが目に付く。

 

 

続けて偕成社/光文社/ポプラ社/東光出版社/宝文館/講談社/河出書房といった比較的大手な出版社の大衆児童文学作品を紹介。さすがに偕成社/光文社/ポプラ社は少年少女小説に強いので本のデータ数も多く、それらの本の概況も記されているから作品内容を簡単に掴みやすい。宝文館は昭和36年に倒産したので現代では殆ど知られていないが、昔は勢力があった会社。上記七社の中では最もジュブナイル探偵小説と縁がない。

 

 

Ⅱ(第二章)は子供向け雑誌を取り上げ、『少年少女漫画と読物』『冒険活劇文庫』『冒険クラブ』『冒険少年』『少女世界』『世界少年』『東光少年』『少年時代』『少年少女譚海』『冒険ブック』『少女ロマンス』『まんがブック』にスポットを当てる。Ⅲ(第三章)は火野蘆平の少女小説論。Ⅳ(第四章)は「大衆児童文学の戦後史」と題し、総論というより適宜テーマを絞りこみ、昭和四十年代に少年少女雑誌が漫画雑誌に取って変わられるまでの流れを示す。

 

 

あとがきによると著者は〝本書は当初、三一書房の『少年小説大系』の「月報」に、昭和六十一年二月から平成三年六月まで、十一回連載した「大衆児童文学の戦後史」を、全面的に書き直して充実させたいという考えから出発している。〟と述懐。そして本書を書くにあたり、二上洋一蔵書も借用したそうだ。根本正義は日本の児童文学全体を研究している人だが、同じジャンルでも探偵小説に強い二上の協力には納得。根本は現在も健在な様子。二上は平成21年に亡くなっている。

 

 

 

(銀) 探偵小説の書誌に踏み込んだ本となると、森英俊とか実にウサン臭い輩が関わっていることが最近は多く、絶賛できるものがなかなか無い。本書にそういった古本ゴロの影が全くないのはとても気持ちがいい。90年代後半あたりからミステリの業界は二上洋一や根本正義みたいな真面目な人達を押しのけて探偵小説本を金儲けのネタにする古本ゴロどもがのさばり出し、図々しく研究者ヅラするようになってしまった。


 

盛林堂書房周辺の連中が売り捌いている、全く校閲をしておらずとても売り物とは思えない同人出版の新刊に対して何の批判もせず、「本が届いた。今日は良い日だ。」と喜ぶばかりの低能なユーザーが増えたのは、森英俊や喜国雅彦ら古本ゴロどもの重罪である。




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