『探偵作家追跡』『探偵作家尋訪』(以下『追跡』『尋訪』と略)に続く新刊。『追跡』のレビューでは処女出版の事もあって数ある欠点にはあえて目をつぶった。だが三冊目にもなって改善する気配が全く無いので今回は触れざるをえない。
既刊二冊はインタビューもあったが基本的に著者の本はデータを見せるものだから、その情報は正確さが命のはず。本書111頁でも北町一郎『鉄十字架の秘密』を『鉄十字架の謎』などと誤記するような凡ミスは困る。若狭邦男と日本古書通信社には推敲とか再校とか、あるいは最低限の原稿見直しを行う当たり前のルーティーンさえも共有されてないのか?
『尋訪』で著者は「戦前の翻訳家・伴大矩とは耶止説夫(=八切止夫)である」と開陳したが、その後一部の識者からネット上で「伴大矩は大江専一の筆名であって、八切止夫は大江の翻訳下請けメンバーの一人にすぎないのでは」と指摘があった。それに対して、本書の耶止説夫の項で訂正も反論も無いのは不自然。古本オタの集まるBBSへ、男爵探偵や広島桜というペンネームで出没してきた若狭が上記の指摘をしているサイトに気付かなかったとはとても考えにくい。
伴大矩の素性がややこしいのは理解できるけれど、この例から見ても若狭の物言いは功名心が強すぎて勇み足の感。他にも「誰々と誰々が同一人物だった」と述べている項で、どうやってそのような結論に至ったかを示す経過が独り合点でわかりにくい。こんな書き方では今後若狭の言う事は信用されなくなる。どうも慎重さと謙虚さに欠ける。比較する古書蒐集家の格が違い過ぎるけれど、あの島崎博はこんなイージーな仕事は一度もしなかった。
更に執筆業が本職ではないとはいえ、句読点の打ち方が滅茶苦茶だったり同じ事を繰り返し書いたり、とても市販の本とは思えない程の読みにくい悪文。ただこれは著者だけの責任ではなく、日本古書通信社の編集者が原稿に手を入れてやるなり、何故アドバイスしてやらないのだろう? 一番の責任はここにあるのかもしれない。これでは長年蒐集した古本が泣いている。
(銀) 私だけでなく他からも「若狭の文章は酷い」とずっと云われていたのに、本書の次に出た著書『探偵作家発掘雑誌 第一巻』でも相変わらず。自分の国語力を恥じるどころかヤフオクで自著にサインを入れて、毎週毎週叩き売りしていたのだから情けないというかダメだこりゃ。それも即決価格販売ならともかく競売形式で出品していたため、レアな価値などなんも無いのに定価以上の金額をツッコむなんとも愚かな入札者もいて、若狭もさぞ内心ほくそえんでいたことだろう。
地元広島で若狭は名士扱いでもされているのか、「蔵書処分に至る」という8回のエッセイが2018年に中国新聞の文化欄で連載され、例によって探偵小説コレクターとしての自己アピールがつらつらと。ここでは不思議と読み易い文章になっているのは、あまりに若狭の原文がひどくて記者の人が第三者にも読み易いようにせっせと添削したのか。
かく言う自分自身の文章だとて、それは褒められたものではない。今までAmazon.co.jpへレビューを投稿してもそのまま書いたら書きっぱなしで、後になってそれを見返す事なんて全然していなかった。それがここへ来て、過去投稿してきたレビューをこのBlogへ移植する作業を続けていると、「うわ、なんじゃこの物言いは?」とヘンな箇所を見つけては自分の御粗末さに呆れるものだ。しかしそんな私の悪文でさえ、若狭の文章と比べたらはるかにマシに見える。