不幸にも元来、児童向け探偵小説本はユーザー・研究者の両方から粗雑に扱われてきた。だから本書の刊行には多大な期待を寄せていた。
まず通読して思ったのは、一冊分の書影が大きすぎて掲載冊数が少ない事。各書影を小さくしてかまわないから、特に稀少で人気の高い(第二〜三展示室に掲載されている)昭和45年までの各全集は可能な限り全ての書影を並べてもらいたかった。この分量ではあまりに物足りない。
また巻末に全集リストが付いているが、タイトルと作者名だけがメインでは簡素すぎる。本書は上質なハードカバー製なので増頁して価格を上げたくない事情は解るけれど、紙質のコストを抑える等の工夫をしてでも書誌データ(頁数、装幀・挿絵画家名、収録作品詳細、前書・後書・解説・函カバーの有無、発行日、等)はキッチリ明記するべきだった。
書かれた文章を読んで感じるのだが「この全集のうちどれがキキメ(入手難)」などと悪い意味でのコレクター臭がある。喜国雅彦らと繋がっている森英俊を編者にするとこうなるから駄目なのだ。資料として後世に残す愛情があるなら、そんな古本キチガイの蘊蓄よりも優先すべき情報がある筈だろうが。その点、発刊当時の関係者の一人である内田庶の証言は意味があった。
本書を読んで現物が欲しくなった方に申し上げる。ただでさえ投機の対象になっている探偵小説古本、まして児童書は近年その筆頭。上記第二〜三展示室掲載の多くの古書は5桁、ものによっては6桁もする。火傷をしたくないなら2011年秋『少年小説コレクション』をスタートする論創社のような、テキストを改悪しない良識出版社に復刊リクエストをよせるのもいいかもしれない。
評伝『別名S・S・ヴァン・ダイン』を出したばかりの藤原編集室の本書立案は評価できるが、全ての現物を所有するのが相当困難なのは誰の目にも明らかなだけに、編集内容は★★。本当に惜しい。森英俊と、協力した古本屋には★1つの資格もなし。
(銀) 藤原編集室と森英俊。真っ当な編集者と転売が日課の古本乞食とが一緒に仕事をする、現代の探偵小説業界が芯から腐敗しているのを象徴するような組み合わせだ。
今となっては嘘みたいな話だが、昔の古書目録をひっぱり出して見てみると1999年頃までは本書で扱われているジュブナイル古書は、稀少なものでも(超レア・アイテムを除けば)度が過ぎる価格は付けられてはいなかったのがわかる。だが本来、少年少女探偵小説の旧い単行本や雑誌はコドモが買ってもらうものだから、やたらと名前や住所だったり意味の無い落書きが書き込まれている場合が多い。コドモが成長すると親は彼らが大事にしていた本や雑誌を捨ててしまうため後世まで生き残る数が少ない上、書込み・痛みの無いものとなると本当に珍しくなる。
それに目を付けた〈ミステリ専門店を名乗る古本屋〉が、「新しいカモを見つけた」とばかりに法外な価格に吊り上げていく。おまけに森英俊のような奴らがレアなジュブナイルを必要以上に持ち上げて騒ぎ立てるので、結局ある種のものなんて一冊何万円もするようになってしまった。ぶっちゃけたことを書いてしまうけれども、ジュブナイルに読む価値など無いなんて言うつもりは毛頭ないが、だからといってこんなトチ狂った金額の古本を買い集めてまで読むほどの必要があるなんて、とても思えない。
この本の制作に協力した古本屋というのは都内西荻窪のにわとり文庫と広島の古書あやかしや。いくら稀覯本を扱うからといっても、前者の極悪な値付けは論外。