日本において昭和以前に翻訳された海外探偵小説の歴史を作家別に紐解いてゆく雑誌連載から、何本かピックアップして90年代に単行本化したものの初文庫化。数々の貴重なミステリ本の書影はその筋の人にはたまらない誘惑があるだろう。戦前期日本探偵小説家への影響もキッチリ触れているので、洋モノを読まない人でも充分楽しめる。
■ アガサ・クリスティー
■ S・S・ヴァン・ダイン
■ ジョンストン・マッカレー
■ オースティン・フリーマン
■ ガストン・ルルー
■ F・W・クロフツ
■ フランス推理小説の怪人たち
■ J・S・フレッチャー
■ アルフレッド・マシャール
■ 草創期の短編作家たち
■ モーリス・ルブラン
■ エドガー・ウォーレス
■ ドイツ文化圏の作家たち
■ ジョン・ディクスン・カー
■ G・K・チェスタトン
双葉文庫「日本推理作家協会賞受賞作全集」初期カバーは均一のデザインで何とも面白みがなかったが最近は個別デザインになり、本書も文庫用に新しくエドガー・ウォーレス『黄水仙事件』の書影(函ではなく本体の表紙だが)を使用してなかなか良い。せっかくの再発だから『翻訳の世界』『EQ』に連載した単行本未収録分をボーナス追加掲載しなかったのは惜しまれる。それらを完全収録していたら文句無く☆5つにしていた。そのあたりは著者もあとがきで述べていて続編の可能性を匂わせているので楽しみに待ちたい。
(銀) という風に本文では書いているが、その後も「欧米推理小説翻訳史」で単行本になっていない分は未だに纏められていない。著者には本書と『探偵小説談林』そして『私の江戸川乱歩体験』という三冊の名著があり、『探偵小説談林』にも同人誌『地下室』に連載されただけで本に入ってない分がやっぱり残っている。このまま眠らせたままにしておくのはもったいない。