2025年4月14日月曜日

『妖花』橘外男

NEW !

名曲堂
1950年8月発売



★★★★  最終章で殺されていた美女は誰だったのか?





書影の帯を見れば「原名〝長春より引揚げて〟=(妖花ユウゼニカ物語)」とあり、
表紙と背表紙は「妖花」、扉頁は「妖花ユウゼニカ物語・・・・長春より引揚げて」、
標題紙は「妖花 ―原名・長春より引揚げて-」
そして奥付のクレジットは「妖花ユウゼニカ物語」(上の巻)
作者はどれを正式なタイトルにするつもりだったのだろう?

 

 

1940年代の前半、橘外男は満洲に移住、そこで家族を養っていた。戦争が終わり内地に帰国後、当時の体験を虚実綯交ぜにした体(てい)で、『週刊朝日』に連載した作品がコレ。作中、ミスター・タチバナの勤務先は満洲映画協会、いわゆる満映ではなく、〝北映〟と書かれているが、満映の花形スター李香蘭については「香」でなく現地風に「馨」の字を使い、其の儘〝李馨蘭〟と呼んでいる。ま、李馨蘭は物語に出てこないからどっちでもいいのだけど。

 

 

中国人部落跡の廃墟から無惨な死体が発見される。その骸の主は、白系露人組合長として威勢を振るっていたウザン・トリヤスキー。大男ながら彼は立木に針金でがんじがらめに縛られ、刃物か何かで心臓を一突き、しかも額に打ち込まれていたの線路用の太く大きな犬釘だった。同様に胡散臭い満洲浪人・諸岡もまるで晒し者のような殺され方をする。この血腥い殺人事件が発生するに至るまで、長春でビジネスを成功させ美しい二人の娘を持つ露西亞人エカティシァンは寿命が縮むほどの苦悩を強いられていた。

 

 

橘外男に正当派の謎解きを期待する人など、まずおられまい。
もとよりタイトルにBeauty Assassinの名が織り込まれているし、読者がみな序盤早々に感付くのは当然だから、ある程度ネタを明かした上で話を進めるけれど、橘外男=ミスター・タチバナはエカティシァンと懇意な仲になり、彼の身の上に起こる数々の災難話を聞かされてゆくうち、例の陰惨極まる殺人事件へ辿り着く、そんな構造になっている。エカティシァンの災難とは上の娘メルセーニカがトリヤスキーに強姦され、順調だった事業までもトリヤスキーの妨害で立ち行かなくなるというもの。むろん倒叙ではないにせよ、トリヤスキーと諸岡の処刑に向け、一連のくだりがジリジリとねちっこく描かれる。

 

 

この題材、橘外男以外の作家だったら半分、いや、それ以下の分量で書き上げてしまうだろう。本来ならばエカティシァンの怒りと苦しみに絞ってストーリーが進むべきところ、日本軍への(橘外男の個人的な)怒りが全体の構成を歪めてしまいかねないぐらいぶちまけられ、面白くはあるけど諄い。下巻まで書くつもりだったそうだが、この先どのような展開に?最終章でトリヤスキーや諸岡そっくりに殺されていたのは果して誰か解らずじまいに終わってしまうとはいえ、これはこれでアリというか、上巻だけで終わって結果オーライにも思えた。




(銀) 橘外男の「後書」を読むと、フィクションではなく、まるで本当にあったことのような口振り。実際満洲にこれほど鮮やかな殺人をやってのける集団がもしいたら関東軍の悪行どころの騒ぎじゃないよ。このいかがわしさが橘の困ったところでもあり魅力でもある。

 

 

 


2025年4月11日金曜日

映画『Drifting〈妖雲渦巻く〉』(1923)

NEW !

Kino Classics    Blu-ray
2014年7月発売



★★★   ブレイク目前のアンナ・メイ・ウォン




本盤にはDriftingのカップリングとして、同じ年に(1923年)公開されたWhite Tigerも収録。主演プリシラ・ディーンと監督トッド・ブラウニング、両者のコラボレーションを打ち出すため、メーカーはこのようなカップリングにしたのだろう。アンナ・メイ・ウォン(Anna May Wongの出演は「Drifting」のみ。どうせプリシラ・ディーン&トッド・ブラウニングを売りにするならアンナも出ている「Outside The Law〈法の外〉」(1920年)と組み合わせてくれればよかったのだが・・・そういう訳で、今回「White Tiger」の内容には触れていない。どちらとも 米Universal Pictures 配給のサイレント映画。

 

 

Driftingでアンナが演じるのは麻薬密売組織を牛耳るドクター・リーの愛娘ローズ・リー。インタータイトルに最も美しい存在と紹介されるものの、見た目の幼さはまだ残っている感じ。この時アンナ18歳、劇中のローズ・リーは15歳の役柄。アンナの知名度をグッと押し上げたのが1924年公開の「The Thief Of Bagdad〈バグダッドの盗賊〉」だとしたら「Drifting」はまさにブレイク目前の作品と言えよう。

 

 

【 仕 様 】

リージョン:ABC(日本のBDプレーヤーで再生可能)

本編:84

 

【 画 質 】

100点中82点。
東欧に残存していた35mmフィルムをベースにレストアしているようだけどもマスターの損傷は激しかったらしく、状態の良いリールを継ぎ接ぎしたり現場の苦労が伺える。その甲斐もあって私みたいな映画にうるさくない人間が鑑賞するぶんにはノー・プロブレム。

「White Tiger」のほうはもっとノイズが多く、白黒画面のまま染色処理はされていない。 

 

【 特典コンテンツ 】

プリシラ・ディーン&トッド・ブラウニング監督による、
Lost FilmThe Exquisite Thief」のフラグメント(10分)

オーディオ・コメンタリー








【 ストーリー 】

キャシー・クック(プリシラ・ディーン)は上海で阿片の密売をしていて、商売敵ジュールズ・レピンと手を組み販路を広げようとするも、仕入れたはずの阿片が届かないトラブル発生。親友のモリーは阿片中毒に陥りベッドから動けない状態だし、キャリーはこんなヤバい仕事から足を洗ってモリーと一緒にアメリカへ帰ろうと決心する。その為には まとまった金が必要なのだが、競馬で一攫千金を狙って大敗。こうなると阿片の行方を突き止めるしか手立ては無く、キャシーは芥子の実の産地である杭州の村へ向かう。

 

 

村には廃坑再開のため単身派遣されてきたというアーサー・ジャーヴィス隊長がいたが、それは表向きの顔。彼は麻薬密売組織の巣窟を調査する政府のエージェントだった。キャシーは名前も職業も偽りジャーヴィスに接近、ところが麻薬密売業の邪魔でしかないこの男の人柄に惹かれてしまう。片や阿片の元締めドクター・リーもジャーヴィスの正体を怪しんでいる。ジュールズ・レピンはドクター・リーと合流、ジャーヴィスに賄賂の条件をちらつかせ、麻薬密売を見逃してくれるよう要求するものの、正義感の強いジャーヴィスは受け入れる訳がない。追い詰められた阿片栽培一味はついに暴動を起こし、村に襲いかかる。




キャシー・クック(プリシラ・ディーン)




ローズ・リー(アンナ・メイ・ウォン)
ジャーヴィス隊長は父ドクター・リーの敵でありながら、
ローズは彼に夢中。




アーサー・ジャーヴィス(マット・ムーア)
二人の女性に恋心を抱かれるほど、
カッコイイとも思えないのだが・・・。




常々ジャーヴィスを威嚇し、村から立ち退かせるべく、
阿片栽培一味が打ち鳴らしている気味の悪い太鼓。
残念ながらサイレント映画なので、その音を聞くことはできない。




暴徒が村を襲撃するクライマックスは盛り上がって良いのだが、よく考えたらジャーヴィスのみ隠密に殺してしまえばいいものを、わざわざ村ぐるみ襲う理由がわからん。そもそもこの映画、脚本にあった部分を編集でカットしてしまったのか、前後関係あやふやな箇所多し。例えば結末にてローズ・リーは死んでしまったっぽい。アンナ・メイ・ウォンの見せ場とはいえ(欠落した場面がある風でもなく)流れ弾を喰らったのか、火災で一酸化炭素中毒になったのか、視聴者は首を傾げつつ想像するしかない。昔の映画は独特の美しさが魅力な反面、説明を端折りすぎてるもの少なからず、痛し痒しである。





プリシラ・ディーンは当時売れっ子だったというけど、このキツイ顔立ちは好みじゃないなあ。それに他の作品ではどうだか知らないけれども、「Drifting」での彼女は豊満というより下半身がやたら重そうな女性に見える。中国が舞台ながらアメリカでセットを組んで撮影しているのはいつもの事。だとしたら村のシーンとか、ロー・バジェットでは済みそうにない制作費が掛けられている筈。私もそうだったが、初めて本作を観た人はてっきり中国で撮影したと思い込むに違いない。






(銀) 「Drifting」の出演者+スタッフ・クレジット、そしてインタータイトルの部分は原版の字体に限りなく寄せて再構築している。アンナ・メイ・ウォンの出演映画はLost Filmと云われているものが多く、残存はハッキリしていても未だソフト化されていない作品だらけ。本作ぐらいの画質なら十分OK、もっといろいろ観ることができると嬉しいのだが。




 


2025年4月9日水曜日

「乱歩あれこれ(伊和新聞連載版)」中相作

NEW !

伊和新聞
2024年6月~2025年3月連載



★★★  デキる人を世間は放っておかない




三重県名張に拠点を置き、毎週土曜日発行されるタブロイド判両面一枚の地方紙『伊和新聞』。そこで昨年六月より中相作は乱歩あれこれ」を連載していたのだが、『伊和新聞』は九十八年の歴史にピリオドを打ち、三月末をもって休刊。それに伴い「乱歩あれこれ」も終了することとなった。




この連載、近い将来一冊の形に纏められるのか、あるいは河岸を変え、どこかの媒体にて再始動するのか、今は不明。ただ伊賀地域・奈良県ローカルの新聞ゆえ、当該地に住んでいない人は氏がこのような連載を続けていたことに気付いていない可能性もあり、このまま時が経つと忘れ去られてしまうかもしれない。そうならぬよう、各回の副題だけでも当Blogに記録しておきたいと思った。江戸川乱歩研究家と郷土史家、二つの顔が中相作にはある。『伊賀一筆』や『うつし世の三重』とも重なる乱歩と三重県(=名張市)の繋がりを主題に執筆された「乱歩あれこれ」。笑いの要素はほぼ無し。




〈1〉  乱歩じまい始めました             令和646日号
〈2〉  Kさんによる乱歩谷崎比較           令和6413日号
〈3〉  市立図書館建設促進運動           令和6420日号
〈4〉  川崎秀二が乱歩文庫提唱                          令和6427日号
〈5〉  反響を呼んだ講談社版全集          令和6511日号



〈6〉  幻に終わった乱歩記念館           令和6518日号
〈7〉  市立図書館の乱歩文庫            令和6525日号
〈8〉  自伝に見るふるさと名張            令和661日号
〈9〉  大正三年夏 川崎克と乱歩                        令和668日号
〈10〉先生と呼ぶ唯一の人                              令和6615日号



〈11〉無断退職して伊豆を放浪             令和6622日号
〈12〉東京から大阪 さらに鳥羽へ           令和6629日号
〈13〉島の女先生と手紙を交換              令和676日号
〈14〉古本屋からラーメン屋へ               令和6713日号
15〉職を求めて川崎克を頼る               令和6720日号



〈16〉お役所勤めは長つづきせず                           令和6727日号
〈17〉しくじり重ね位牌にお詫び               令和683日号
〈18秀二が勧めた参院選出馬               令和6810日号
〈19〉推理作家協の協賛で講演会              令和6824日号
〈20〉乱歩イベントあれこれ回顧                             令和6831日号



〈21〉生誕130年記念事業概要              令和6914日号
〈22〉津藩に仕えた平井家七代                       令和6921日号
〈23〉岸宏子さんの「不熟につき」                       令和6928日号
〈24〉影絵で描いた名張藤堂家                       令和6105日号
〈25〉名張のまちでどう生きるか                   令和61012日号



〈26〉上野に住んだ平井家三代           令和61019日号
〈27〉名張を舞台に「乱歩誕生」                       令和61026日号
〈28〉伊豆伊東で見つけた祖先            令和6112日号
〈29〉津藩の殿様に水をかけた娘          令和61112日号(ママ)
〈30〉乱歩生誕地碑除幕六十九年          令和61123日号




〈31〉冷川御前と四代藩主高睦                        令和61130日号
〈32〉新たに結んだ藤堂家との縁           令和6127日号
〈33〉日本推理作家協会賞報告           令和61214日号
〈34〉57歳で訪れた生家の跡地           令和711日号(ママ)
〈35〉平井家七代 陳就の生涯                  令和7111日号




〈36〉平井分家初代 繁男の生涯            令和7118日号
〈37〉平井繁男長男 太郎の誕生              令和7125日号
〈38〉祖先と生地 発見の奇縁                  令和721日号
〈39〉生誕地碑と二銭銅貨煎餅                                 令和728日号
〈40〉初心に戻ってインタビュー              令和7215日号




〈41〉死にそうになった思い出             令和7222日号
〈42〉乱歩邸の蔵に入った思い出               令和731日号
〈43〉目録三冊が完成したので                令和738日号
〈44〉蔵びらきからまちなか再生            令和7315日号
〈45〉細川邸整備と乱歩記念館             令和7322日号




〈46〉宣言症候群に便乗して終了            令和7329日号





乱歩じまい進行中と言いつつ、いまだ御本人は江戸川乱歩について考察したいテーマをお持ちのように見受けられる。それは書籍の姿に昇華され、我々のもとへ届くだろうか。お台場のテレビ局ほど地に落ちてしまった探偵小説の業界で、唯一私が楽しみに待てることと言ったら中相作の仕事だけだ。





(銀) 前にどこかの記事で書いたかもしれないが、『探偵小説四十年』ばりの超大作でなくていいから、中相作自伝みたいなものも読んでみたい。若い頃の読書体験、父君のこと、秋田實や笑いのこと・・・でも人外境主人は大変慎み深いので、実現は相当に難しい。誰か氏をその気にさせる勧め上手な人はいないものかな。






■ 中 相作 関連記事 ■






















2025年4月6日日曜日

『トレント最後の事件』ベントリー/延原謙(訳)

NEW !

新潮文庫
1958年11月発売



★★  トレントの恋は単なるフェイント




延原謙が翻訳した「トレント最後の事件」単行本一覧はこちら。

 

『トレント最後の事件』    黒白書房              昭和10年刊

『    〃    』    雄鶏社/おんどり・みすてりい      昭和25年刊

『    〃    』    新潮社/探偵小説文庫                       昭和31年刊

『    〃    』    新潮文庫                                      昭和33年刊


 

本書・新潮文庫版の解説にて延原はこう述べている。

 

〝私がこの作をはじめに訳したのは昭和十年で、当時は出版社の意向もあり、かつそれが当時の一般的傾向でもあったので、枚数制限を行ったが、こんどは機会を与えられたので、全体を検討して約九十枚を補綴して完全を期した。文字の使用法もできるだけ当用漢字法に従いたかったが、多少は当用漢字以外の字も使わざるをえなかった。その場合はなるべくふりがなをつけるように心がけた。

一九五八年秋   訳 者

 

 

一見「トレント最後の事件」を初めて完訳したのは新潮文庫版のように受け取れるけれど、この二年前、同じ新潮社が出していた探偵小説文庫版で既に完訳し、それをそのまま新潮文庫のテキストに流用している可能性もある。抄訳だった戦前の黒白書房版と新潮文庫版しか持っていないのでハッキリ断定はできないが、もし最終形の延原謙「トレント最後の事件」完訳を読みたいのなら、本書を入手しておけばまず間違いはない。

 

 

この長篇でいつも話題になるのは死んだ金満家ジグスビ・マンダスンの妻メーベルに対するフィリップ・トレントの恋愛感情。でもあれは言うなれば読者へのフェイントにすぎない訳で、意外な結末がラストに控えており本格黄金時代の中でも本作は一目置かれているとはいえ、探偵役の恋がイメージとして少々拡大解釈されているきらいはある。二人のLoveはクライマックスの真相に直結しないのだから。








さてそれでは、黒白書房版抄訳テキストと本書・新潮文庫版完訳テキストではどんな違いがあるのか、部分的ではあるがチェック。まずは目次。

 

 

〈黒白書房〉              〈新潮文庫〉

 

序曲                 第一章    序曲

凶報                 第二章    凶報

朝の食事               第三章    朝の食事

眼の中の捕繩             第四章        眼の中の捕繩

寢室にて               第五章        寝室にて

 

バナーの推定             第六章        バナーの推定

電報                 第七章        黒衣の婦人

査問會                第八章        査問会

恐ろしき事實             第九章        恐ろしき事実

生ける屍               第十章        生ける屍

 

トレントの報告            第十一章         トレントの報告

トレントの苦惱            第十二章         トレントの苦悩

夫人の告白              第十三章         夫人の告白

挑戰狀                第十四章         挑戦状

マーロウの告白            第十五章         マーロウの告白

 

意外な結末              第十六章         意外な結末

 

 

目次比較からも明らかなように、いくら黒白書房版が抄訳だからといって肝心な箇所まで削ってはいない。新潮文庫版では各章にナンバリングし、第七章の章題を「電報」から「黒衣の婦人」へ変更。全体の語り口を特にいじることはせず、旧訳の〝将棋〟表記を〝チェス〟に直したり、「そこまで詳しく形容しなくてもいいんじゃね?」と延原が判断したくだりを黒白書房版のテキストではあちこちスキップしていたため、それらの復元に努めている。

 

 

例えば「凶報」の章。
冒頭から数行経過したところで新聞社の社長サ・ジェームズ・モロイの人となりが紹介される。その部分は〝この偉大なるジャーナリストは、アイルランド生れの長身・・・・〟うんぬんかんぬん続いてゆくのだが、黒白書房版では彼が絶倫の精力の持主だとか、外見/性格/仕事のモットー等といった情報は訳されていない。

 

 

もうひとつ、章題が変えられた「黒衣の婦人」の章を見てみよう。この章には、ひとり水平線の彼方を眺め物思いに耽っているマンダスン夫人メーベルを見かけたトレントの胸の内に火が灯る大事なシーンがある。それでも黒白書房版ではページ調整のためカットせざるをえなかったのか〝画家として眼の肥えたトレントにも、この女はきわめて美しいものに受けいれられた。〟から〝トレントは不意をうたれて、黒衣愚人の姿をみた瞬間歩みをとめたが、そのまま静かにうしろをまわって、行きすぎた。〟の間にある数行のうち、メーベルに関する描写が少なからずカットされていた




以前 ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』(☜)の記事でも書いたように、戦後の新潮文庫は必要以上に漢字を開いている。その傾向は新潮文庫だけでなく春陽堂文庫/創元推理文庫などでも顕著。せっかく完訳していても、そんなひらがなだらけじゃ字面が美しくない。こうして比べてみると、旧漢字/旧仮名遣いテキストで作られた戦前の黒白書房版で読むほうが(たとえ抄訳であれ)やはり味わいがある。同じ延原謙訳『トレント最後の事件』といえども黒白書房版なら満点にするが、新潮文庫版なら★4つ。






(銀) 最新の『トレント最後の事件』訳書って・・・創元推理文庫が2017年に出したアレか。大久保康雄の訳だから、昭和時代に発表された旧訳のままのテキストかな。本作には〝インディアン〟〝土人〟といったワードが含まれているし、この次 新訳が出される時には間違いなくポリコレ自粛が横行しているだろう。

 

 

 

   EC・ベントリー 関連記事 ■















2025年4月1日火曜日

映画『Island Of Lost Men』(1939)

NEW !

KL Studio Classics   From『Anna May Wong Collection』 Blu-ray
2023年5月発売



★★★   マレーシア奥地へ潜入する将軍の娘




猥雑な通りに日本語と思しき看板も見える夜のシンガポール。
Anna May Wong(アンナ・メイ・ウォン)演じるチャイナ・リリィがナイトクラブのフロアを歌い歩くシーンから物語は始まる。低音のクール・ヴォイスは女優アンナ・メイ・ウォンの魅力のひとつ。ここで彼女が歌う「Music on the Shore」という曲はわざわざこの役の為に作られたと云われている。本作の監督はカート・ニューマン。

 






【 ストーリー 】 

ナイトクラブで幅を利かせるグレゴリー・プリンの金蔓はマレーシア奥地のプランテーション。そのプランテーションはジャングルを流れる川の上流にあり、自らキング・オブ・ザ・リバーと名乗るこの男は常に権力を誇示している。フロアで歌っていた美しいチャイナ・リリィを食事のテーブルに同席させ「自分のプランテーションは脛に傷持つ者が身を隠すのにちょうどいい場所だ」と洩らすプリン。するとリリィは自分もそこへ連れていってほしいと言う。




プリンの居住するジャングルのバンガローには腹心のスタッフが常駐しているのだが、そのうち中国人青年チャン・タイはリリィと顔見知りの様子。というのも、この二人には同じ目的があった。中国の将軍アン・リンは政府の金30万ドルを横領した容疑を掛けられ現在行方不明になっている。将軍の娘キム・リン、すなわちチャイナ・リリィは父の無実を証明する為、チャン・タイは中国の諜報員として将軍の行方を突き止めるべく、別個に行動しながらグレゴリー・プリンのもとに辿り着いたのだ。

 

 

【 仕 様 】

リージョン:A(日本のBDプレーヤーで再生可能)

 

【 字 幕 】

英語(よくある事だが、英語以外の言語のセリフは表示無し)

 

【 特典コンテンツ 】

・映画「Four Frightened People」予告篇

・映画「The Eagle And The Hawk」予告篇

・映画「Beau Geste」予告篇

・オーディオ・コメンタリー(字幕無し)























 













B級映画に多くを求めても仕方ないのだけど、特に目立つ欠点も無い画質はほどほどクリアなわりに63分の尺が長く感じる。グレゴリー・プリンは裏稼業で私腹を肥やしていながら、彼のバンガローはそこまでリッチに見えない。将軍アン・リンに対して、頂くものを頂いたらさっさと始末しておけばよかったのに、どうしてプリンは将軍を生かしておいたのだろう?プリンの下僕で小猿を可愛がっている好人物のおじさんハーバート(エリック・ブロア)の存在が良いアクセントになっているとはいえ、その他のキャラ設定はもっと詰めておかなきゃ。

 

 

この映画は米パラマウントが六年前に公開した「White Woman」のリメイクらしく、ネットでそれをチラ見したら、プリンの相棒バリスターが女主人公を抱きすくめて言い寄るシーンあり。「Island Of Lost Men」にそのような場面は無い。幾分ギトギトしていた「White Woman」に比べ、こちらはマイルドな演出。だからと言って、「White Woman」のほうが出来が良いかといえばそんなことは無く、チャールズ・ロートンが「White Woman」にて演じていたプリンは本作のJ・キャロル・ネイシュ以上に道化っぽいし、全然悪人に見えない。せっかくリメイクするなら、Island Of Lost Men」は前作の弱いところをもっとテコ入れすべきだった。

 

 

(銀) 本日の記事で紹介している「Island Of Lost Men」は北米盤ブルーレイBOXAnna May Wong Collection』(三枚組)のうちの一枚。日本では一度も公開されてないのか、ネットで邦題を調べてみたが見つからなかった。