2020年7月10日金曜日

『うつし世の三重~江戸川乱歩三重県随筆集』中相作(編)

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伊賀文学振興会
2020年7月発売





★★★★★   切っても切れぬ、三重県と乱歩の縁





HP『名張人外境』主人にして江戸川乱歩リファレンスの人・中相作が編者として新しい乱歩本を世に送り出した。乱歩の生誕地は編者の拠点でもある三重県名張。『名張人外境』を一度でも閲覧したことのある人なら、乱歩に対する中相作の敬意と愛情について説明の必要はあるまい。乱歩の書いた随筆の中から三重に関するものだけを抽出し、テーマごとに纏めたものが本書だ。各章の見出しだけでも載せておく。

 

略伝/家族/家系/少年時代追懐/職業を転々す/暖国の気ままな勤め/妻/探偵作家の日々/ふるさとの発見

 

江戸川乱歩という人の特異な面として、自分への関心が並外れていることが挙げられる。いくら作家として大成功したからといって、自分の家系を遡って調べたりここまで何度も随筆その他に書き遺す文人が他にいるだろうか?

 

若い頃の平井太郎(=乱歩の本名)がどの職業についても長続きしなかったのは有名な話だが、その中でも珍しく鳥羽での造船所勤務期間は楽しい日々だった。その頃の社内誌『日和』に書いた文章もここに収録されている(但し小説ではないので、決して読みにくくはないが相当の乱歩党でないと面白がれないかもしれない)。

 

鳥羽造船所での友人達、二山久・井上勝喜・本位田準一らは上京後も乱歩と気の置けないつきあいが続いたのだが、乱歩の虚名が頂点に達すると何が原因でか二山と井上のふたりは乱歩と決別し、その後のゆくえを知る者はいない。二山久と井上勝喜の消息が判明することはもう無いのだろうか・・・。

 

また乱歩の三重の友人といえば、男色研究家として南方熊楠とも交流のあった岩田準一がいる。この人は元々画家志望で、昭和初期の平凡社版『現代大衆文学全集』の乱歩の巻にて挿絵を描いたりもしているが、知る人も少ない創作小説が存在する。それらを一冊の本に纏めたのが新青年研究会員の森永佳代で、同人出版だが2020年に『彼の偶像~岩田準一作品集』がリリースされ、今ならまだ定価で買える筈。

 

話を『うつし世の三重』に戻すと、その入手方法は伊賀文学振興会出版事務局へメールで申し込むか、もしくは三重県内の特定の書店で買うか、今は差し当たりそのふたつのみに絞られているらしい(定価2,200+税)。限定出版のようで、あまり部数を刷ってなさそうだから速やかに入手することを薦める。



(銀) 新潮社は岩田準一の孫・岩田準子による長篇『二青年図~乱歩と岩田準一』をなぜ文庫にしないのだろう? もう市場から姿を消して何年にもなるというのに。

 

乱歩の実家・平井家は代々、津藩主/藤堂高虎に連なる藤堂家に仕えてきた。中相作によると、今の名張はTSYTAYAが出店しても一年で撤退してしまうほどの閑散ぶりだという。都会と地方の異常なる格差。


九州に住む私の友人は、「平成30年夏の西日本豪雨災害が起きてからの九州はそれまで以上に雑誌を含む新刊本の書店入荷があまりに遅く、東京大阪ならともかく札幌でさえ普通に売り出している新刊がいつまで待っても入荷しない。早く本を読みたい人間は広島から西にはもう住んでられんぞ。」と深い溜息をついてコボしていた。要するに西日本だと発売日から23日程度では済まないほど新刊の入荷が遅いらしい。そんな状況もおかまいなしに「フラゲした」だのと言ってtwitterでわざわざアピールする東京周辺田舎者のダサさ。