2020年10月3日土曜日

『伊賀一筆/第1号』

2014年12月11日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

名張人外境
2014年12月発売




★★★★★   乱歩リファレンス第一人者の個人誌、出来!



中相作が個人雑誌を出した!過去に氏が手掛けた本はどれも驚天動地の内容だったが、今回も読む側が呆れるぐらい労力が費やされている。

 

 

作家デビューよりもずっと前、若き日の江戸川乱歩が自分の探偵小説耽読歴を振り返って編んだ(世の中に一部しか存在しない)手製本『奇譚』というものがある。これはかつて一度88年に『奇譚/獏の言葉』(江戸川乱歩推理文庫第59)において写真版で収録されたが、原本が肉筆な事もあって中身を解析するにも実に読み難かった。そこで中相作は原文を解読→活字化し脚注まで付けてしまうという実に面倒極まる作業を本誌上でやってのけている。(但し文庫版の『奇譚/獏の言葉』をベースにしているので、原本にある第5部ヴェルヌ・ウェルズ/暗号論/人名索引は載っていない)

 

 

そして氏のサイト『名張人外境』の中で長年コツコツと更新されてきた乱歩著書目録の2002年〜2013分も掲載。本来ならこういう事はいつまでも氏に❛おんぶにだっこ❜とせず、立教大の江戸川乱歩記念大衆文化研究センターが引き継がなければいけないのではないか?

 

 

『奇譚』と乱歩関連目録、どちらも根気のいる作業をこなし結果を出す頑強な意思には拍手を送るばかり。余談だが氏が書いたものの中に誤字・脱字を見た記憶が私は殆ど無い。Twitterでキャンキャンほざくしか能のないエセ研究家や評論家には氏の実行力は一生真似できまいて。


 

 

世間では『奇譚』と目録の凄さを中心に本誌が喧伝されるであろう。しかし、だ。昔から『名張人外境』を拝読している私からしたら氏が本誌で一番読んでほしいのは、「自分と乱歩との関わり」「郷土・名張とゆかりのある江戸川乱歩という存在を微塵も理解しようとせず、ゴミのような行政しかできない三重県の役所・役人どもへの尽きぬ怒り」を綴りまくった、笑いを交えた漫才・手記スタイルから成るパートの文章だと思うのだ。

 

 

もしアナタが乱歩に興味があってwebサイト『名張人外境』まだ閲覧した事がないのなら是非一度アクセスしてみては?「池袋の自邸土蔵を、生前の乱歩は ❛幻影城❜ と呼んでいました」などと根拠のない嘘っぱちを書いたりするしょーもない乱歩本を買って金を無駄にするよりも、ここの過去のコンテンツを読む方が100倍ためになる。

 

 

2014年に出た乱歩本は『「少年探偵団」大研究』とか『江戸川乱歩の迷宮世界』とかお子様ランチなものばかりだったが、藍峯舎から刊行された豪華本『完本 黒蜥蜴』(版元HPのみの販売・限定部数刊行)そして本誌と、知性ある乱歩ファンは中相作が関与しているこの二冊さえ押さえておけば他は必要無い。



 

 

(銀) その後、『伊賀一筆』に未掲載だった部分もフォローし、CD-ROMまで付けた決定版『奇譚』2016年に藍峯舎から限定発売され、即Sold Out。藍峯舎からリリースされる豪華本では毎回中相作が解説を執筆しているが、この藍峯舎決定版『奇譚』では翻刻・校訂も手掛けている。



                  藍峯舎版 『奇譚』

 


個人誌『伊賀一筆』は〈創刊 兼 終刊号〉なんていかにも氏らしい諧謔的な一言が添えてあったから「これっきりで終わり?」と思っていた。ところがどっこい、2019年にまたしても濃厚な内容をつめこんだ『伊賀一筆 第2号』が世に放たれ、2020年にはフリーマガジン『伊賀一筆FM』 の創刊準備号と創刊予告号、更に当Blogでも2020年7月10日の記事にて紹介済みの『うつし世の三重 ~ 江戸川乱歩三重県随筆集』を突如刊行、『名張人外境』の読者+乱歩ファンを驚愕せしめたのである。



                 『伊賀一筆』 第2号

 

 「名張人外境ブログ2.0を毎日欠かさず読んでいると、これだけに終わらず中相作の次なる一手は水面下で着々と進行している気配が。それは何かといえば・・・イヤ、出てからのお楽しみとしておこう。