◕ 朝廷から八犬士の〝金碗〟継承が認可されたにもかかわらず、犬江親兵衛だけは細河政元の屋敷に留め置かれてしまう。この管領政元には少々男色の気があり、若く武力知力ともに秀でた親兵衛を自分の家来かつ稚児として手元に置きたがったのもあるが、もうひとつ理由があった。前巻で登場した悪僧・徳用はなんと細河家の執事・香西復六の子で、細河政元とは乳兄弟。例の丶大法師による大法会を襲撃した罪で結城を追われ、こっそり京に戻ってきていたこの男は八犬士に恨み骨髄、政元に進言し親兵衛に復讐する腹積もりだったのだ。
よって親兵衛は「武芸の手並みを披露せよ」という事になり、京で名うての達人と戦わされる。それはさておき、蜑崎十一郎照文は里見義実/義成に報告するため先に安房へ帰ったけれども、姨雪代四郎ら数人の里見家家来は(管領に手出しできないとはいえ)都に残って街中に潜伏し、親兵衛救出の機会を窺っていた。このくだりで里見家家来の一人・直塚紀二六が(密室ではないけれど)屋敷から一歩も出ることができない親兵衛と、あるトリックを使って秘かに通信を交わす。あまり好きではない京都篇ではあるが、この部分はなかなか面白い。
◕ 同じ頃、八犬士及び里見家に対する扇谷定正の敵意は日増しに強くなっており、同じ管領である山内顕定をはじめ、過去にいがみ合ってきた関八州の武家までも巻き込んで、里見家を滅ぼす大戦の準備を着々と進めていた。一方、穂北では闘病中だった氷垣残三夏行が亡くなり、その跡目を落鮎余之七有種が継いでいたのだが、彼らが犬士達と深く繋がっている内情を定正が放っていた間諜者に知られてしまう。いよいよ物語は大詰めクライマックスへ。第八巻はここまで。
天保11年。とうとう馬琴は両目とも失明してしまい、本来ならばもう小説なんて書ける場合ではないのに、亡くなった息子の嫁・お路に文字を教えて口述筆記をさせるという苦難の道を選ぶ。しかもそのお路に対して、馬琴の妻のお百が嫉妬心を起こすのだから、滝沢家の修羅場は想像に難くない。目がよく見えないストレスは、そうなった者にしかわかりえない。馬琴の絶望感とイライラは如何ばかりだったろう。しかしそれでも彼は「南総里見八犬伝」の完成しか考えていなかった。
世間的に親兵衛のエピソードは人気が無いかもしれないが、少なくとも視力喪失による文章のパワー・ダウンといったものは微塵も感じられない。「他人の作る本にて、言葉狩りやテキストのミスがあるのは絶対許さないが、自分は老眼だから自分の作る本のテキストに間違いが生じるのはやむをえないこと」などと自己弁護ばかりしているどこぞの輩とは月とスッポン。もっともそんな愚人と比較すること自体、馬琴のような偉人に対して失礼なのだが。







