2023年10月5日木曜日

『「関西探偵/捕物作家クラブ会報」集成-戦後占領期の大衆文化』第1~2巻

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金沢文圃閣  解題:石川巧/金子明雄/川崎賢子/小松史生子/谷口基/浜田雄介/山口直孝
2023年9月発売




★★    KTSCの会報は抱腹絶倒で面白いけど

   



今回も人柱になります。詳しくは後段で。

『「関西探偵/捕物作家クラブ会報」集成-戦後占領期の大衆文化』第一回配本の内容はこんな感じ。終戦直後に探偵小説好きな人々が集って発行した各種グループ会報の復刻影印本である。




   1巻 ■ 280ページ

『探偵小説ニュースDS news』第1号~第4

19468月~194710月)

 

『関西探偵小説新人会々報』第1

19482月)

 

『関西探偵作家クラブ会報』第2号~第39

19483月~19515月)

 

『探偵小説を愉しむ会会報』第1号~第4

19483月~19494月)

 

 

   2巻 ■ 270ページ

『関西探偵作家クラブ会報』第40号~第79

19516月~195411月)

 

『日本探偵作家クラブ関西支部会報』第1号~第14

195412月~19567月)

 

 

『探偵小説ニュースDS newsというのは戦後すぐに刊行された探偵小説叢書「DS選書」(例えばこの本)などで知られる自由出版の広報誌みたいな内容だけども、〝DS讀書會 會員名簿〟といった全国各都道府県に散らばる探偵小説シンパな人達の名前も見られ、同好の士の会報的な意味合いも持ち合わせていたと考えられる。

 

 

『探偵小説を愉しむ會會報』は讀売新聞社の白石潔主導ゆえ、後日単行本として上梓される評論『探偵小説の「郷愁」について』関連の文章が載っている。以上の二紙は東京を拠点に出されたもの。書名に表記されている捕物作家クラブ会報は今回の第1~2巻には未収録。次回配本分に入るのだろう。

 

 

▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢ ▢

 

 

存続年数が長く、内容的にも一際話題性に富むのは西田政治を会長に置き関西方面在住者(広島の坪田宏なども含む)によって結成された西探偵作家クラブ(=略称KTSC)の會報。主だった作家メンバーは香住春吾/島久平/天城一/戸田巽/山本禾太郎/鷲尾三郎/島本春雄/川島郁夫/山沢晴雄/矢野徹。

 

 

世情が一変し、それまでになかった日本オリジナルの本格長篇「本陣殺人事件」「獄門島」「刺青殺人事件」が生まれ、〝戦後派五人男〟(大坪砂男/島田一男/香山滋/山田風太郎/高木彬光)の登場もあってシーンは活性化していた。そんな状況を反映してか口さがない顔ぶれが集まった関西探偵作家クラブ、笑えるぐらい言いたい事を言いまくっているのが痛快。そこへ東京の魔童子(山田風太郎+高木彬光)/大坪砂男/幽鬼太郎(白石潔)も濫入、本格派指向グループと文学派指向グループの対立は箱根の西でも火の手が上がる。

 

 

関西の連中はほぼ本格派というか江戸川乱歩・横溝正史を支持していて、この二大巨頭に対し批判や悪口が発せられることはまず無い(それも極端過ぎてどうかと思うけどね)。反対に文学派の総帥・木々高太郎には罵詈雑言の嵐。こう書くといかにもギスギスしてるように受け取られるかもしれないが、議論紛糾している時こそシーンが賑やかな証拠なのであって、次第に作品や業界への厳しい意見よりも「読みがいのある探偵小説が無い」みたいなボヤキが増えてゆく。残念ながら戦後の日本における探偵小説の上向き感はほんの一瞬だったのだ。

 

 

2巻の後半になるとKTSCは東京の日本探偵作家クラブに吸収され関西支部として再出発。この頃木々高太郎が日本探偵作家クラブの会長を務めるのだが、以前あれだけ叩きまくってきた木々や大坪砂男に対する矛を収め、微温的な接し方をするのはKTSCのメンバーも本当のところどうだったのだろう?実際会合なんかで顔を合わせたら、ばつが悪くなったりしなかったのかな?無責任な読者として言わせてもらえば、KTSC會報は常に毒が飛び交っていないとつまらない。

 

 

             

 

 

さて。以前取り上げた『探偵新聞』復刻版(下記の関連記事リンクを参照)同様、本書も金沢文圃閣の本なので函入りでもなくハードカバーでもないのに二冊で47,300円。もう一回言います、二冊で47,300円。戦後すぐの印刷物だから現物そのものが不鮮明なのは仕方ないにせよ、あまりにも文字が見にくくて二冊すべて読み終えるのに相当目が疲労困憊するのを覚悟しなければならない。しかも今回の二冊が第一回配本ってことは更に第34巻、そして別巻が(発売日は知らないが)第二回配本としてそのうち出るらしい。復刻内容そのものには非常に意義があるけれど、文字が読みにくい上に、この暴価じゃ如何ともしがたい。

 

 

1990年、柏書房が出してくれた『探偵作家クラブ会報』全四巻は各巻函入りハードカバーで一冊あたりの定価は16,000円前後だった。とかくクラブ会報というのは既存の本では得られない貴重な情報が発見できたりするので、本当なら影印本ではなくちゃんとテキストを入力し直して出してくれるのが望ましい。柏書房の復刻本から約三十年経ち物価が上がっているのを考慮しても、金沢文圃閣が制作する本の価格は到底承服できぬ。★一つおまけしたのは『関西探偵作家クラブ会報』の歯に衣着せぬ毒舌ぶりが気持ちよかったから。

 

 

 

(銀) 敗戦を迎え自由にこそなったとはいえ、殆どの日本国民が生きていくのに精一杯。精神的にも皆ささくれ立っていただろうし、探偵作家達や探偵小説シンパがグループになって集いたがった気持ちは理解できる。ただそうなると会の運営だの、なんやかんやで自分の時間が失われるデメリットが生まれたりもする訳で、KTSCの會報を読んでいると香住春吾なんていつも会の雑事に時間を取られて創作どころではなかったんじゃないかなあ。島久平に至っては愛娘が重態になっているのにKTSC例会に顔を出さなくちゃならないなんて、群れることが嫌いな私からすると「そこまで会に義理立てしなくちゃならんの?」と気の毒に思ってしまう。





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