2020年10月4日日曜日

『探偵小説の街・神戸』野村恒彦

2013年10月11日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

エレガント・ライフ
2013年10月発売




★★★★★   関西がホームだった探偵作家の活動には、
                もっと知られるべき実績がある




野村恒彦は勿論神戸の人で、探偵小説愛好会「畸人郷」と「神戸探偵小説愛好會」を主宰。今回の本は単なる街巡りでなく作家の活動や作品を時系列に見せ、それにまつわる関西ゆかりの土地情報を織り込んでいくものだ。

 

 

✪ 第一章 探偵小説の揺籃期と神戸

横溝正史・西田政治と江戸川乱歩の邂逅から、二つの才能を中心に歴史が動き始める。
この三人が出会った西田家の存在する町名が、後の「悪魔の手毬唄」に登場してくるという。

 

 

✪ 第二章 『新青年』の時代

初期の横溝・海野十三・山本禾太郎・西田政治にふれる。海野は神戸一中の卒業生。

 

 

✪ 第三章 『ぷろふいる』の時代

『ぷろふいる』再評価の経緯、また同誌から発生した「神戸探偵倶楽部」の動きを追う。神戸を舞台にした彼らの執筆作「燃ゆるネオン」を紹介。そして山本禾太郎「小笛事件」の連載と刊行前後のエピソードも。

 

 

✪ 第四章 『ぷろふいる』と神戸の作家たち

西田政治の評論・山本禾太郎・酒井嘉七・九鬼紫郎・戸田巽について。著者は酒井嘉七の令嬢や戸田巽の子息とも会見しているが、西田政治本人との交流は特に思い出深いものだろう。

 

 

✪ 第五章 関西探偵作家クラブ

近年、島久平が一部の好事家の間で注目されているものの、KTSC(関西探偵作家クラブの略称)の足跡についてはまだまだ認知されていない事が多い。本書をキッカケにクラブ会報復刻の動きが出てきてほしい。

 

 

✪ 第六章 神戸探偵小説愛好會

野村恒彦による、東川崎町の横溝正史生誕地碑建立への尽力も記憶に新しい。氏の探偵小説への愛情は、古書自慢をするしか能のないどこぞの輩とは根本から違うのだ。

 

 

✪ 第七〜八章 神戸とミステリー(その一 〜 その二)

横溝正史「悪魔が来りて笛を吹く」「悪魔の手毬唄」、高木彬光「黒白の囮」、海野十三「蝿男」、橋本五郎「疑問の三」ほか、三橋一夫・鷲尾三郎・梶龍雄など、神戸に関係する作家・作品の数々。 

 

 

 

(銀) 著者の人柄がよくわかる、発見の多い良書だった。これは必携の一冊。この本を出して数年後、野村はホームタウン神戸/元町駅近くに、なんと古書店(うみねこ堂書林)を開業。

 

ミステリ業界の中には、野村恒彦とつい混同しそうな名前の野村宏平という人物がいる。
ワセダミステリ・クラブの出で、古本転売・香具師の森英俊とペアで仕事をする事が多い。
神戸の野村恒彦は(森英俊のような ❛ヨゴレ❜ とは真逆の)100%ちゃんとした紳士なので、
森の仲間の野村宏平とは絶対に間違わないで頂きたい。