2024年8月1日木曜日

映画『Cat People〈キャット・ピープル〉』(1942)

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The Criterion Collection   Blu-ray
2016年9月発売



★★★★   猫属の血



Citizen Kane」(邦題「市民ケーン」)の翌年に公開されたクラシック・サイコホラー「Cat People」。1942RKO Radio Pictures制作。監督ジャック・ターナー。主人公のイレーナを演じるのはシモーヌ・シモン。ちょっとエラの張った顔立ちの彼女はヴィジュアル的に絶対的猫系でもないのだが、シックなモノトーン映像が美しい本作の中で独特の存在感を漂わせている。

 

 

日本にお住まいの映画フリークの方はいろいろ大変だろうなあ、といつも思う。それというのも日本のメーカーが発売する古い映画のブルーレイDVDは大半と言っていいくらい【画質のクオリティー】及び【特典コンテンツの有無】双方の面で欧米に後れを取っており、最善のソフトが欲しいなら海外盤に頼るしかないからだ。しかもCD/レコードと異なり、映像ソフトにはリージョンコードという厄介な壁があるので、北米盤も欧州盤もあまねくチェックしたければ、マルチ対応な再生プレーヤーを持っていなければならない。各国映画会社の勝手な都合とはいえ、実にバカバカしい縛りだ。




日本盤ブルーレイ




Cat People」は日本盤ブルーレイも出ていて、珍しくジャケット・デザインがダサくないのだけど、特典映像が何も無くてメリットは日本語字幕のみ。日本盤ブルーレイは北米盤より半年先にリリースされていながら、どっちを買うべきか悩む余地も無かったぐらい、Criterion製・北米盤ブルーレイのほうがはるかに充実している。米国Criterion社というのは、古い映画のレストア技術において世界中の映画ファンから一目置かれている映像ソフトメーカー。私でも知っているぐらいだから、その信頼度は推して知るべし。

 

 

1940年代、ヒロインをおどろおどろしい怪物へと変身させるSFXの技術はまだ無い。自分の体に流れる猫属の血を懼れるイレーナは、夫・オリバーの愛情を受け止めることができず悩み続けているため、獣性を露わにするクライマックスに至るまでの彼女は、不幸なメロドラマ・キャラの趣きもある。おまけにオリバーの仕事の同僚アリスが「本当はあたし貴方(オリバー)のことが好きだったの」と告白するので、三人の関係はますますややこしくなってゆく。他人の夫であるオリバーにそんなこと口走るアリスも本来悪い女じゃないんだが、この場合はどうなのよ。





          




本作が観る者のイメージを膨らませるような作りであるのとは対照的に、1982年のリメイク版「Cat People(監督ポール・シュレイダー/主演ナスターシャ・キンスキー/主題歌デヴィッド・ボウイ)ではなにもかもが煽情的になってしまい、オリジナルのそこはかとない上品さは消え失せてしまった。アリスがプールで脅えるシーンひとつ比べても、1942年版の女優ジェーン・ランドルフは露出の少ない水着姿だが、1982年版で演じたアネット・オトゥールはボトムしか身に着けておらず、ほぼヌード状態。

 

 

ジェットコースターもどきのハリウッド映画に慣れ過ぎてしまった人には、1942年版の「Cat People」は刺戟が足りないだろう。でも戦前の素敵なワードローブ(イレーナとアリスのファッションが見所)だとか、猫属であるイレーナの真の姿(?)をストレートに見せない奥ゆかしい演出など、東西冷戦以降に作られた映画から失われていったものを愛でる感性さえあれば、これはAmazing Filmとして愉しめるに違いない
(エッチなシーンをご所望なら、迷わず1982年版をどうぞ)


 

 

 

 

(銀) 北米盤ブルーレイの特典コンテンツは次のとおり。


 

○ プロデューサー・ヴァル・リュートンにスポットを当てたドキュメンタリー「The Man in the Shadows 

彼の手掛けた映画が断片的に沢山見られて、お得感たっぷり。
Cat People」の続編(?)「The Curse of the Cat People」も少し見られる。

 

○ 1979年にフランスでTV放送された監督ジャック・ターナー晩年のインタビュー 

ここではジャック・ターナーがフランス語を喋っているので英語字幕が付いているが、
このブルーレイは「Cat People」本編を除き、それ以外の特典映像に字幕は付いていない。

 

○ カメラマン=ジョン・ベイリーによる撮影秘話

 

○ 予告編

 

○ 映画解説者グレゴリー・マンクのオーディオ・コメンタリー
  (一部シモーヌ・シモンのトークも含む)




よく海外盤のブルーレイ/DVDを買って、「字幕が消せない!」と困っている人が時々いるが、全てのディスクがメニューの中で字幕をon/offする仕様になっている訳ではありません。『Cat People』北米盤ブルーレイなどはメニューでなく、再生プレーヤーのリモコンで字幕の有り無しを操作します。アナタの使っているプレーヤーも、リモコンに「字幕切換」と書いてあるボタンがないか確認してみて下さい。海外盤を観る際のご参考まで。








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