✷ 国書刊行会版『定本夢野久作全集』について、編纂メンバーのひとりだった沢田安史が日下三蔵を迎え先月10月13日に行った対談が『図書新聞』の一面トップに掲載されている。全集完結からもう一年経っているのに今頃こんな対談?と感じるほど時期外れなタイミング。あくまでも邪推に過ぎないが、全集がそれほど売れてなくて、もう一押しプロモーションせざるをえない?売れぬ全集は出版社にとって重い負荷になってしまうから大変だ。
この対談、全集を作る際の資料集めはキリがないというボヤキと、少々の自慢(口にしているのは沢田安史ではなく日下三蔵のほう/これまでやってきた自分の仕事に対して)を滲ませている印象が残るぐらいで、さして目新しい情報は無い。見つけられずに終わった雑誌『黒白』の欠号を残念がっている沢田の気持ちは私も同じ。
沢田によれば、以前同じ国書刊行会から『定本久生十蘭全集』を出した時には外部からの情報提供があったけれど、今回の『定本夢野久作全集』の制作時にはそれが無く、最終的に西原和海蔵書+沢田が発見した資料で賄ったそうだ。たまたまなのか、それとも外部の人が積極的に資料を提供してくれる作家とそうでない作家があるものなのか、どっちなんだろうね。
✷ グッド・ニュースをひとつ。某所にてこっそり告知されていたNew Edition『夢野久作の日記』、やはり同じ版元・国書刊行会にて鋭意制作中みたい。編集チームは浜田雄介/大鷹涼子/沢田安史+国書の編集者・伊藤里和。やっぱり西原和海は杉山満丸が良い顔しないから外されちゃった?
✷ 対談の中で夢野久作とは関係ないが、沢田安史の「木々高太郎もしっかりとした全集がほしい」という発言に対して、日下三蔵が「なかなか厳しい」「そこまで人気があるといえばすこし弱い」「雑多で変なものも多いからむしろ傑作集向きの作家」などとのたまっている。反対に香山滋は「作品が粒揃いでなくてもなぜかすべて読みたくなる作家」だとさ。何を言ってんだか、それって単に自分の好き嫌いだろ。そんな余計な事を言うから木々の新刊が全然出ないんだよ。
世間のユーザーから、大物探偵作家の中で木々高太郎が地味な印象を持たれているのは私も否定しない。さらに先日の記事(☜こちらをクリックして見よ)で言及したように、木々がもし本当に(リアルタイムで彼に接していた業界の人々から)ごっそり人望を失っていたならばその影響は意外に根深く、平成以降に論者が代替わりしたミステリ界であっても、彼の再評価や作品復刊を促す声が上がりにくい状況を今でも引き摺っているかもしれない。『新青年』研究会として、このままじゃダメでしょ?沢田氏よ、日下の言う事など耳を貸さなくていいから、木々の本を出して下さいませ。
(銀) 日下三蔵が夏に入院したとかで春陽堂の「合作探偵小説コレクション」の刊行も第四巻で止まったまま、第五巻がいつ出るのか不明。前にも言ったけれど、編者が最初から底本をすべて揃える目処を立てられてもいないのに、なぜ版元はこんなシリーズものを見切り発車で始めるのか私には理解できない。