2023年2月25日土曜日

『民ヲ親ニス/第9号』

NEW !

「夢野久作と杉山三代研究会」事務局
2023年2月発売



★★★★    継続はチカラ 





「夢野久作と杉山三代研究会」発足十年。年に一回研究大会を開催し続け、会報『民ヲ親ニス』は創刊から数えて本号で九冊目を迎える。プラス、別冊『夢の久作のごとある』も出した。よくここまで辛抱強く頑張ってきたものだ。本当ならこれで夢野久作記念館みたいなメルクマールがあれば理想的なのだろうけど〝箱物〟というものはまことに金喰い虫であり、見栄を張って建てたはいいが、資金を安定して保持できなければ遅かれ早かれ自滅してしまう。それを考えると、身の丈に合わぬ〝箱物〟に手を出そうとせず今日まで来たのは正解。



                   




本号では「〝母を想う夢野久作〟をたずねて」「杉山三代つれづれ」など、夢野久作のご令孫・杉山満丸による記事が目立つのが嬉しい。発足して十年の間に新しく若いファンが誕生しているのを意識してか、久作研究の基礎を改めて見直せるよう杉山龍丸「夢野久作の生涯」/鶴見俊輔「ドグラマグラの世界」/江戸川乱歩「夢野久作とその作品」といった、『夢野久作の世界』(西原和海/編)に収録されていたコンテンツが再録されてもいる。

 

 

杉山満丸によると、現在絶版になっている父・杉山龍丸の著作をもう一度世に出したいそうなのだが、出版社へ話を持ち込んでも「一度出版されたものは売れる見込みが立たないので出版できない」などと云われ、断られているらしい。本当だろうか?だとしたらオファーを受けた出版社の見識を私は疑うね。『わが父・夢野久作』もそうだし、私が以前から欲し続けている『夢野久作の日記』のアップデート版にしても、再発に携わる人間が無能だったら出す意味がないどころか、かえって逆効果になる。盛林堂書房周辺・捕物出版/大陸書館・論創社に代表される、テキスト校正チェックさえろくにやろうともしない(カネだけが目当ての)連中は論外、たとえ有名でなくとも杉山家に愛情をもってじっくり本を作ってくれる版元に出会えるまで、再発は待ったほうがいい。



            
       
会報別冊『夢の久作のごとある』。こちらもnow on sale。


 

 
「夢野久作と杉山3代研究会」もふたつめのdecadeに突入する。私個人、(それは仕方のない事なのだが)大作「ドグラマグラ」についての論考ばかりになりがちなのが気になっている。たまには「暗黒公使」なんかも話題に挙げればいいのに。それと、このBlogで『定本夢野久作全集 第8巻』の記事にも書いたけど、久作の眼から見た東京人や関東大震災といったルポルタージュに関心を持つ人がどうしていないのか。自然と研究テーマが偏りがちになってはないか。

 

                    



今、日本は中国という侵略者にじわじわ乗っ取られようとしている。そんな ❛今そこにある危機❜ を踏まえ、杉山茂丸が明治~大正の御代にやってきたことを、口先だけで誰かと繋がっていなければ何もできぬ現代人にでもわかりやすく学習させられる評論書というのも欲しい。本号を読むと、梅乃木彬夫という人物が『鬼滅の刃はドグラ・マグラ』と題された小説を近日刊行するそうで、「鬼滅の刃」と夢野久作がどう繋がるのか遺憾ながら全然わからないが、私はファンの妄想云々ではなくリアリスティックな文献を求める。十年目を過ぎると、様々な点でマンネリが目につく局面も出てくるとは思うが、杉山家の研究にどんな新しい変化が見られるのか楽しみだ。

 

 

 

(銀) 本号の内容が告知され、私が一番楽しみにしていた記事は沢田安史「国書刊行会『定本夢野久作全集』編纂に関わって」だった。これも当Blog上にてさんざん述べたとおり、あの全集の編纂作業の裏側でいったい何が起きていたのかを知りたかったから。ところが、この記事は第9回研究大会の中で沢田が発表する際に参加者へ配布したとおぼしきレジュメの転載でしかなく、沢田自身による文章は何もなくて落胆した。会場ではいろいろ突っ込んだ話がされたのかもしれないが。

            

ついでにこの場に付け加えておくと、『定本夢野久作全集』全巻購入者特典「新聞型冊子・挿絵つき『犬神博士』」だが、複写元の『福岡日日新聞』が鮮明ではないマイクロフィルムしか残存していないのか、青柳喜兵衛の挿絵はまだしも紙面上の文字に読み取りにくい箇所が多く、企画自体に若干無理があったように思う。