2021年1月14日木曜日

『民ヲ親ニス/第4号』

2016年11月11日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

「夢野久作と杉山3代研究会」事務局
2016年11月発売



★★★★★    遂に全国発売!



杉山家の御膝元・福岡で活動している「夢野久作と杉山3代研究会」。強力な杉山家シンパの人々が研究結果を報告していて、会の名が示す如く夢野久作こと杉山泰道だけでなく、久作父・杉山茂丸/久作長男・杉山龍丸も研究の対象となっている。

 

 

この会報誌『民ヲ親ニス』は毎年一回刊行される会報誌で、手に取って見て頂くとわかるが、実に濃すぎる内容。私は正直言って久作以外はからきし詳しくないので、ついていくのが大変なぐらい(特に杉山茂丸関連の記事)。

 

 

これまでは「夢野久作と杉山3代研究会」会員への配布もしくは希望者への通信販売という、限られた範囲での認知だったかもしれないが、第4号完成を機に販売ルートを拡げたそう。Amazon等の大手通販サイトで見つからない時には、(店舗は限られるが)北から南まで一部のジュンク堂ほかの書店取扱もある。とにかく「何を研究したらいいのか」さえもわかっていない『横溝正史研究』とはまるで対称的。『横溝正史研究 』 はずっと発売延期を繰り返してるが大丈夫かね?(翌2017年にどうにか『横溝正史研究 』は出たが、その号で打ち切りになった模様)

 

 

本号においても詳細すぎる久作著書目録や、戦前の日本探偵小説を俯瞰する「書誌:夢野久作の誕生とその作家的地位確立に至る経緯」とか、茂丸派の方には「杉山茂丸<百魔>の書誌と著作年譜」といったページもある。講談社学術文庫版の『百魔』がそんなに言葉狩りや脱落文がある内容だったとは知らなかった。

 

 

14歳の杉山直樹少年(久作の幼名)が福岡の風景を描いたスケッチの紹介もあるし、必読必携な内容に出来上がっている。バックナンバーしかり、なくなる前に是非入手しておいたほうがよろしいかと。




(銀) 私の興味の範疇外なので一度も行ったことは無いが福岡県北九州市小倉には「松本清張記念館」があり、そのwebサイトを閲覧すると、建物自体決してみすぼらしいスペースではないようだ。更に99年から現在に至るまで年一回発行されている研究誌『松本清張研究』のみならず企画展が開催される時には図録も度々販売しているし、紙ベースかどうかは知らないが館報まで制作している。



私の興味の対象となる探偵小説の分野で、これに対抗できている個人探偵作家の施設といったら西池袋旧乱歩邸を買い取った立教大学の「江戸川乱歩記念大衆文化センター」のみ。いくら ❛ 志 ❜ は高くとも潤沢な資金、それと(有能とはいわずとも)そこそこ無能ではない人材がいなければこんな記念館をずっとやっていける筈がない。清張の場合は、彼の戦友ともいうべき元文藝春秋新社の編集者だった藤井康栄が長年「松本清張記念館」館長を務め、運営の充実に力を尽くしてきたという。



「松本清張記念館」には一般会員として年会費3,000円を徴収する友の会があるが、それだけで立派な刊行物を定期的に出し続けられるもんかね? もしくは裏で巨大な金主がバックアップしているとか? 私なんかからすると、清張にそれほど熱狂的な固定ファンが大勢いるようには思えないが、どうやってこの記念館を維持できているのか不思議でならない。



夢野久作には記念館こそないけれど本稿で紹介した「夢野久作と杉山3代研究会」が発足したし、久作の遺品は福岡県立図書館や九州大学で管理されている。とはいえ西原和海は昔から「福岡人はなかなか夢野久作に関心を持とうとしない」と愚痴をこぼしてきたが、久作と清張の福岡県内における扱いを目にすると、その差は否定のしようがない。