2023年9月20日水曜日

『横溝正史の日本語』今野真二

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春陽堂書店
2023年9月発売



★★    やることすべてルーズな春陽堂の本の中で
      いちいち細かな指摘をされても説得力が無い
         



 今野真二という人は以前から江戸川乱歩や横溝正史なり探偵小説のことが本当に好きで『乱歩の日本語』や本書を上梓しているのだろうか?それに本についての基礎知識もちゃんと理解してる?私にはそう思えないな。





 各種存在する「真珠郎」単行本を刊行順に並べ、1937年に六人社から発売された一番最初の「真珠郎」単行本に対し、のっけから著者は〝初版〟という言葉で定義しているので、私は首を傾げたくなる。

どうも或る作品が初めて単行本になった時の状態イコール〝初版〟と思い込んでいるようなのだが、これってすべからく〝初刊〟の間違いじゃないの?その作品が初めて単行本になって世に出たあと、(版元や外装はともかく)紙型などテキスト部分にて少しでも変更を施し再発される時だって、そういった本の第一刷はどれも〝初版〟って言うでしょ。(違いますか?)

 

 

次に「鬼火」。この作品は単行本によって採用されるテキストがバラけており、やはり歴代の単行本をリストアップし、その異同に触れている。2023年現在、直近に刊行された「鬼火」の収録書籍が柏書房の『横溝正史ミステリ短篇コレクション2 鬼火』であるため、その解説を引用してあたかも日下三蔵が「鬼火」の複雑なテキスト変遷を整理したように書いているが、本のレア度にしか関心の無い日下にそんな芸当ができる筈もなく、これはすべて横溝正史研究者・浜田知明が長年かけて明らかにしてきた成果を日下がコピペしているだけの話。著者は御存知?

 

 

そして、本書の中で個人的に一番ウケたところ。
横溝正史作品に対して日頃〝草双紙趣味〟という表現が安易に使われるけれども、「正史本人が実際どんな草双紙を読んでいたのか具体的な作品名をあげていることは少ない。それなのに現代の評者は本当に草双紙というものを理解した上で〝草双紙趣味〟なんて修飾を正史作品に用いているのだろうか?」と今野は疑義を呈している。ハハハハハハハハ、まさしく仰せのとおり。口が悪いのは私人後に落ちないとはいえ、この著者も言うねぇ~。少なくともtwitter、いやXに蔓延る横溝クラスタ云々/日下三蔵に代表される蔵書自慢がルーティーンな人達、このあたりはまず200%草双紙のことなんてちっとも解ってないと断言しますヨ。(検索してみたら私もこのBlogの中で一度〝草双紙〟という言葉を使っていた。)

 

 

♣ 初出から初刊(著者言うところの初版)、また初刊からそれ以降へ、テキストにおいて本来作者が意図していたものが次第にブレていってしまう危うさなど、至極もっともな非常に頷ける警句は其処此処にある。然は然り乍ら、前段にて指摘した〝初版〟〝初刊〟問題以外にも〝三津木俊助〟〝三津木俊介〟になってたりして(289ページ)、重箱の隅をつつきまくるような内容の本を書いている以上、こんなケアレスミスはゼロにしないと自分にブーメランが返ってきかねない。相変わらず『江戸川乱歩全集』のテキスト引用に最も使ってはいけない1950年代の春陽堂版全集を使ってるし(336ページ)。

 

 

春陽堂といえばこの『横溝正史の日本語』、発売前から版元のOnline Shopで事前予約してても大手書店や通販サイトより発送作業がものすごく遅いのだから、ダメな会社は何年経ってもダメですな。その証拠にこちらの画像をクリック拡大して見てほしい。これは今年の五月に出た春陽堂文庫の『神州纐纈城』(国枝史郎)初版第一刷。こんな風に奇妙に泣き別れして改行印刷されたテキスト、私は見たことがない。


こういう春陽堂側への不審が常にあるから、余計に今野真二の本にも良い印象を持ちづらいのである。





(銀) 本書を読んでいて主役の横溝正史以外にも、その他の探偵作家のことや各章のテーマに関連する書誌情報が城壁のように積み重ねられているよう、一見映る。でもこれって今野本人の探偵小説読書歴に伴う知識だろうか。「ビギナーなんだから探偵小説の知ったかぶりをするな」とまでは言わないけれど、なんだかマニア受けしそうなデータをどこかから借りてきて理論武装しているみたいで、著者自身の読書体験から来る深みのようなものは感じられない。





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