朝起きたら、何はなくともまず最初に『名張人外境』(☜)へアクセス、それが私の日課。最近のブログ形態になり更新頻度が低下してしまったけれど過去の『名張人外境』(☜)はなんらかの用事で中相作が家を空けている場合を除き、日々あたかも新聞のように熱っぽく情報発信がされていたものだ。HPのプラットフォーム・カラーが黒ベースだった最初の頃はBBS(今ではノスタルジックな言葉)が盛んな時期で、『名張人外境』のBBS「人外境だより」も常に賑わいを見せていた。おしなべて世界中同じ状態だろうが、長く続いてきたHPであってもBBSはある時期を境にすさまじいスパムの的になってしまって、『名張人外境』も例外ではなく「人外境だより」だけは現在見返すことができないのが寂しい。
既刊の『江戸川乱歩リファレンスブック』三冊(=『乱歩文献データブック』『江戸川乱歩執筆年譜』『江戸川乱歩著書目録』)そして『子不語の夢』『乱歩謎解きクロニクル』と、中相作が手塩にかけた乱歩研究書にはいずれも新鮮な驚きがあった。個人的には例えば『江戸川乱歩執筆年譜』を読んでいて、てっきり乱歩が快調に執筆しているとばかり思っていた「魔術師」後半や「黄金仮面」の中盤以降と、どうにも袋小路に入り込んでいるようにしか見えない「盲獣」の連載が足並み揃えて同時進行していた事実を、誰にでも見やすいフォーマットで示された時のことなど強く印象に残っている。
中相作が現れる前、世間に流布していた島崎博による乱歩年譜(昔の角川文庫の巻末に載っていたアレです)も熟読はしていたつもりだったが、『名張人外境』の提示する執筆年譜は丁寧かつユーザーライクで、何事につけ江戸川乱歩に対し見えていなかったものを見えるようにしてくれる、それこそが人外境主人の仕事の素晴らしさだといっても過言ではない。
『江戸川乱歩リファレンスブック』三番手の『江戸川乱歩著書目録』リリースから二十年の時を経てようやく完成した『江戸川乱歩年譜集成』。人はきっともうひとつの『探偵小説四十年』だと讃えるだろうし、ボリュームからして重厚なので「中相作の最高傑作!」と激賞するに違いない。長年待ち侘び遂に届けられたこの書物をまず一度最後まで読み終えたあと、不思議に今までの中相作の乱歩研究書に感じた衝撃とは異なり、雨の日も風の日もたゆまず更新されてきたいくつもの『名張人外境』のエントリや情報が脳裏によみがえってきて、なんとも言えぬ懐かしさを噛み締めている自分がいることに気がついた。
「あ、このフラグメントはたしかあの時追求されていたな~」とか「いろいろ中氏は逡巡されていたっけ、この一件はこんな風に結論付けたんだ」とか、記憶力の悪い私でも二十年間ずっと見続けてきた『名張人外境』のエントリの数々を意外と覚えているもので。この特別な感覚は毎日じっくり『名張人外境』に接してきた人間特有のものなんだろうけど、二十年の年月が私をそうさせるのか新たな発見を見つけてワクワクする以上に、今日まで『名張人外境』がsurviveしてきたその結晶が『江戸川乱歩年譜集成』なんだなあと、そんな感慨深い思いでいっぱいになる。
とかしんみり語っているが、中相作が編纂した書物を一遍読んだぐらいで理解した気でいるのは甘い甘い。どうせ再読するたびに「あれっ?」と気づかされるネタがその都度浮上してくるのがいつものパターンなんだから。『乱歩文献データブック』『江戸川乱歩執筆年譜』『江戸川乱歩著書目録』の三冊は刊行後アップデートされた内容をネットの『名張人外境』で見ることもできるけれど、『江戸川乱歩年譜集成』だけはフィジカルの本書を読むしか手段がない。本書もやっぱり何度も何度も何度も何度も手に取る長い付き合いになるであろう。