さて。戦前の日本の写真を新書のカタチで提示してみせた光文社新書『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』がメディアでかなり話題になったせいか、本書『写真が語る銃後の暮らし』も、本来のモノクロ写真を使用しているとはいえ、対象にしている年代は昭和の幕開けから敗戦までだし、似たような路線の作りでヴィジュアル重視なところは好ましい。昭和12年~15年までのドキュメントが載っている本書第二章「国家総動員」の111ページにはこのような写真がある。
如何だろう?「印度の奇術師」冒頭で描かれていた〝防空訓練〟を行う女性達の姿に非常に近いように思えるのだが、写真下にあるキャプションを見てわかるとおり、これは昭和13年に東京・日比谷公園で実施された〝防空訓練〟に参加しているモンペ姿の女性を写したもの。このようにして、東京の女性がモンペ+火事頭巾スタイルで〝防空訓練〟を本格的にやらされ始めたのは、日米が開戦した昭和16年以降ではなく、やはり「防空法」施行後からだった事が改めてヴィジュアルでも確認できた。
小林司/東山あかね『シャーロック・ホームズ解読百科』を読み倒してきたせいか、無闇矢鱈に蔵書ばかり増やして何の知識も得ないでいるより、既に持っている本を再読したり、小説の中に記されている文章からもう一歩突っ込んで、紙背に隠れている情報を知る作業のほうが楽しいなと、ふとそんな事も感じた八月の夜であった。
(銀) 半藤一利『B面昭和史 1926 ➤
1945』(平凡社ライブラリー)には日本探偵作家の名が見られたが、この『写真が語る銃後の暮らし』でも昭和モダンのアイコンとして、江戸川乱歩と夢野久作の名前が挙げられている箇所がある(36ページ)。
掲載されている数々の写真を眺めるのはいいのだけれど、本書の帯(裏面)に「いまは、新しい戦前なのか」なんて陳腐な惹句があったり、中身の文章にも左派っぽい傾向が雑に表出していてセンスがなさすぎ。現内閣へのアンチテーゼを発散している本は巷に溢れているけど、誰も彼もどうしてこんな手垢の付いた表現しかできないのかね?リベラル支持は結構だが、手法があまりに幼稚で、そこにインテリジェンスは皆無。日本人の一番苦手なものって政治なのかも。
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