明治維新の大波をかぶり西洋化が浸透してきた大正時代から高度成長で劇的変化が起きる直前の昭和30年代まで、そんなに遠くない過去の日本の旧い写真や映像を見るのが好きだ。新書というハンディなフォーマットで約500頁近くも昭和初期の写真を眺めることができるというのはナイスな企画じゃないか。
被写体は人々の営みから戦時中の光景までさまざま。有名人だと双葉山/昭和天皇/マッカーサー/東条英機/ヒットラー/山本五十六の姿も見られるがそれはホンのごく一部で、街角の日本人であれ戦地の外国人であれ主役は市井の人々。太平洋戦争をメイン・テーマに据えているので昭和15~20年の写真が多くを占める。日本人が撮ったものだけでなく外国人撮影あるいは米国の雑誌『LIFE』に掲載されたものもある。
近年NHKの番組で昔のモノクロ映像を時代考証・調査して本来あったかのように着色したドキュメンタリーをよく目にしてきた。この本はあれの静止画版ともいえよう。この手の着色プロジェクトでよく云われるのが「モノクロの写真や映像を見ると、まるで昔は〝色の無い世界〟だったように見える。しかし実際、街角にも風景にも人の洋服にも今と同じように〝色のある世界〟があった。それを知ってほしい。」というお題目。意義と手間はよくわかる。映像に着色したものよりは写真のほうがまだ自然な感じに見える。
AIが自動的に下地の色付けをした次の段階で当時の人の証言や資料から色を考証・調査しつつ、時には想像に頼ったりもして手作業で着色するという。ただ想像となるとオリジナルの色を全て完全に再現しているとは言えないのではないか?現代人の目にはそれらしい感じに見えるけれど100%本物どおりに復元されているとは私には思えなくて、モノクロ素材の後付けカラー化を全肯定できない気持ちが常にある。ただカラーであるぶん画像に明るさはあるので見やすくなったメリットは否定しないけどね。
それにこの本の編者・庭田杏珠は広島出身と聞くが、映画『この世界の片隅に』にコンセプトを寄せ過ぎて広島の写真の分量が多い。また戦闘写真も多いわりには兵士の死体とか流血現場とか陰惨なものは見当たらない。20歳になるかならないかの年若い編者が、そういう面から意図的に目を背け『この世界の片隅に』の叙情性に浸りすぎていたらよくないな。
とシニカルな感想を述べたものの〈新書の写真集〉というのは大変扱いやすいので、次回があるなら大正元年から昭和10年あたりまでの日本の、都市モダニズムの光と闇を捉えた写真集が欲しい。東京及びその周辺、大阪・神戸・京都のあの時代の街並や人の装い、あるいは当時最大の人気スポーツだった大相撲の写真集とか見たい。無理に労力をかけなくともモノクロのままの写真でかまわないから。
(銀) 一見このBlogの対象外っぽい本だが、戦前・戦後の日本探偵小説の背景になる時代風俗に焦点を当てた本や映像アイテムはこれからも時々取り上げていきたい。
本書みたいな写真集、あるいはノン・フィクションのドキュメンタリー映像ならそこまで気にしないけれども、『ウルトラQ』みたいに元々モノクロで撮ったエンターテイメント作品の映像を〈総天然色〉などと言ってカラー化するのはアホとしかいいようがない。ちょこっと見たけど、ゴメスもペギラもケムール人も陰影の深みを無くし安っぽい作りものにしか見えなくなってしまっている。映画『ゴジラ』も白黒だから最初のやつが怖いし、シリアスな脚本が活きるのだ。