2024年11月1日金曜日

『南幸夫探偵小説集』南幸夫

NEW !

コロッケ出版
2024年9月発売



★★    ハンドメイド・ラブリー




「南幸夫って・・・・誰ですか?『幻の探偵雑誌5「探偵文藝」傑作選』(光文社文庫)に彼の短篇「くらがり坂の怪」が収録されていたそうですが。」

 

 

「その短篇は既読の筈だけど、内容しかり南幸夫って名前も全然覚えてないねえ。
どれどれ・・・大下宇陀児や濱尾四郎と同じ明治29年生まれ・・・ホンの一瞬、探偵文壇に関わっている履歴アリ・・・ふ~ん。ググッてもあんまり情報出て来ないし、どういう系統の作家か説明しづらいな。『文藝春秋』を立ち上げた頃の菊池寛と交流を持ち、その後『文藝時代』同人として色々書いてるから、佐々木味津三/横光利一/石濱金作/十一谷義三郎とか、あのカテゴリーに属していたのかしらん。」

 

 

「忘れないうち、『南幸夫探偵小説集』の収録内容を紹介しときましょう。」

 

小説

「黙殺の理由」「霊鬼先生の術」「くらがり坂の怪」「けちな小説」

「夏の夜の話」「NOCTURNO CAPRICCIOSO


随筆その他

「クローズ・アップ」「探偵難」「白状」


解説

「横町の迷宮、鏡の都市」

「作品年譜」

 
 

「この本、手作り?文庫サイズで可愛いばかりじゃなく、半透明の保護カバーを外してみると表紙の題箋がなかなか凝ってる。印刷業者に委託せず一冊一冊オレ流で製本してるのかな。このやり方だと手間が掛かって少部数しか作れないだろうなあ。」

 

 

「オレ流って別に落合博満じゃないんですから。でも小説読んだんですけど、はっきり言ってもっと読みたいと思わせるようなポテンシャルはどこにも無いですよねえ。」

 

 

「たしかに。まあ三橋一夫とは方向性が違うけどさ、庶民生活の微妙な機微を好む人にはそこそこ受け入れられるんじゃないの?小説がダルいのはさておき、解説や作品年譜がしっかりしていて南幸夫の経歴を一望できるのは助かる。昭和2年になると『文藝時代』が終焉を迎えて、南は故郷の和歌山に引っ込んじゃうし、それで文壇から忘れ去られてしまったのかも。」

 

 

「そういえば、この本の奥付には〝編集発行 コロッケ出版〟としかクレジットされていませんね。」

 

 

「コロッケ出版は『龍膽寺雄を読む本』という本も出してるんだ。
龍膽寺雄研究の同人出版といえば、四年前に『龍膽寺雄の本』(☜)を出した『夜泣き』編集部の鈴木裕人を思い出さないかい?雑誌『夜泣き』は終刊になったけど、このコロッケ出版がどうやら彼の新しいレーベルみたいで、『南幸夫探偵小説集』も十中八九鈴木の仕事に違いないよ。それにしても本書解説の執筆者名がつい見落としそうなぐらい小さな文字になっていたり、なぜそこまで自分の存在を隠したいんだろう?」

 

 

「さあ、すっごく繊細な人なんでしょうよ。
ん?あっ、そうか。龍膽寺雄は新感覚派なんて云われてて、まんざら『文藝時代』の作家達とも遠からぬ存在ですもんね。鈴木氏の興味があのグループに向けられているのなら、龍膽寺雄に次いで南幸夫の本を出すのも納得がいきます。」

 

 

 

(銀) 隙間を狙った探偵小説の復刊もとうとうここまで来たか・・・と思う。鈴木裕人が探偵小説の本を出すとは予想だにしていなかった。私が『龍膽寺雄の本』の記事でピックアップした龍膽寺の短篇も底本さえ揃えば是非書籍化してほしいけど、あの辺は好みじゃないのかな?






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