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『夜泣き』編集部
2020年9月発売
★★★★ 同人出版で龍膽寺雄のガイドブックが出るとは
龍膽寺雄は戦前のモダニズム新興文学派。このBlogで扱うべき作家かどうか迷ったけれど、せっかく本書を入手したので取り上げることにした。これは同人誌『夜泣き』のスペシャル・エディションみたいな一冊で限定200部発行。奥付にナンバーまで入っている。浅原六朗などと同様に名前はよく存じ上げており常に気にしてはいたのだが、戦前の雑誌で見かける以外に今まで読んだ本といったら講談社学芸文庫とか僅かしか無い。龍膽寺の小説よりも印象深いのは彼の奥方。小説に登場するキャラクター〈魔子〉のモデルと云われる・安塚正子嬢は当時のモガとしては、現代でも十分イケそうなルックスの持主なのである。
この本の冒頭には龍膽寺の代表作のひとつ「放浪時代」の抄録(註釈付き)をはじめ、「事務所」「山の魔子」「黒牡丹の主人」といった短いものが丁寧な旧仮名遣いテキストを用いて配置されている。門外漢の私には編者・鈴木裕人による「龍膽寺雄の読み方・読まれ方」(こちらにも詳細な註釈がある)~「龍膽寺雄作品目録」が何かと役に立つ。「著書目録」もあるけど一冊ごとの収録作品もきっちり記載していたらもっと便利だった。龍膽寺が七十代の頃にNHKラジオ番組出演した時のトークを文字起こししたページもあり。
さてそれでは、私向きの龍膽寺雄作品にはどんなものがあるだろう?
光文社文庫『幻の探偵雑誌 「新青年」傑作選』巻末の作者別作品リストを見ると、龍膽寺雄は次の六短篇がヒットする。
「夜の鸚鵡」 (『新青年』 昭和5年1月号)
「桜ンぼうの恋」 (『新青年』 昭和5年9月号)
「第一の接吻」 (『新青年』 昭和6年1月号)
「蟻とバンガロオ」(『新青年』 昭和6年5月号)
「十三号室の吊鉢」(『新青年』 昭和14年10月号)
「電波恋愛」 (『新青年』 昭和15年7月号)
「海の城塞」(『妖奇』 昭和27年2月号)
「人造人間」(『トリック』 昭和27年12月号)
「浮浪少女」(『トリック』 昭和28年1月号)
で、本書の作品目録を眺めて上記作品以外にめぼしいものを探してみたら、「ロボットの誘拐(乙女を誘拐した人造人間の話)」(『現代』 昭和7年4月号)が見つかる。他にも私の趣味に合いそうな作品はまだ隠れていそうだが、タイトルがなんとなくよさげに見えても内容を確認してみなければハッキリした事は言えないので、今日のところはこれ位の言及にとどめておく。
(銀) 近年新刊で読めるようになったものといったら『シャボテン幻想』に『焼夷弾を浴びたシャボテン』。あのね、龍膽寺雄=シャボテンじゃないんだってば。もっと面白い小説があるんだから、出版界の方々も視野をもう少し広くもって本を作ってもらいたいな。ちくま文庫『日本幻想文学事典』の龍膽寺の項で紹介されていた長篇「化石の街」等よりは、上記に挙げた短篇を纏めて一冊にするほうが、私と似た趣味の読者にはウケると思うのだけど。