2024年8月15日木曜日

『朱夏No.13/特集〈探偵小説のアジア体験〉』

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せらび書房
1999年10月発売



★★★★   外地探偵小説と言えば藤田知浩




『朱夏』は満洲など旧日本領の文化を探求するせらび書房の雑誌だ。かつて年二回ペースで刊行されていたけれど、2007年に出た第二十二号が今のところ latest issue。また単行本のほうも、2010年の『外地探偵小説集/南方篇』こちらのリンク先を見よ)ではシリーズの続巻を匂わせていたのに、せらび書房自体が活動停止したような状態がずっと続いていた。

 

 

 

更新はされずとも、せらび書房の公式HPは存続していたので、そこに一縷の望みを託していたのだが、なんと先日、十数年ぶりに待望の新刊情報が公開。これは嬉しい。その探偵小説本が無事発売されたらすぐにレポートする予定なので、詳細はもう少々お待ち頂きたい。そういう訳で今回はせらび書房の復活を祝し、〈探偵小説のアジア体験〉なる特集を組んだ『朱夏』第十三号を振り返ろうと思う。もちろん責任編集は「外地探偵小説集」シリーズを手掛けてきた藤田知浩。

 

 

 

それは言うまでもなく『朱夏』のコンセプトに沿い、戦前日本の植民地周辺と探偵小説の関係性を掘り下げた内容で、渡辺啓助とモンゴル/小栗虫太郎と南洋/夢野久作と朝鮮半島をテーマにした作家論があったり、加納一朗による満洲出身探偵作家の紹介を行っている(ちなみに本号に登場する顔ぶれは戦後にデビューした作家も含む)。なんでも赤川次郎の父親・赤川孝一は満映の職員で、甘粕正彦の自殺を最初に発見した人物だそうだ。

 

 

 

他に中相作や西原和海の寄稿もあるのだが、私にとってのハイライトは大村茂の「月刊満洲社と竹中英太郎」。大村は竹中労事務所の一員だったフォトグラファー。満洲時代の竹中英太郎は謎に包まれており、竹中労の著作を読んでもハッキリしない事が多い。かつて月刊満洲社に勤めていた方の協力もあって、この記事は何度も読み返した。おまけに大庭武年「小盜児市場の殺人」を旧仮名遣い&挿絵付きで再録しているとなると、なにげに英太郎推しの感あり。

 

 

 

今では多種多様な資料が出回っているため当り前に知られている事実でも1999年の時点では貴重だった。藤田知浩の仕事にはもっと評価されてしかるべき先見性がある。何かよんどころない諸事情があって、せらび書房は長い間休眠していたのだろうが、もし可能ならば単行本の制作だけでなく『朱夏』の再開も期待したい。

 

 

 

(銀) この号は『新青年』に掲載されたアジア関連探偵小説の作品ガイド、及びそれに属する書籍紹介もあり、全体の半分を探偵小説特集に費やしている。






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