NEW !
双葉文庫
1984年4月発売
★★★★★ 復刊するすると論創社が吹聴しながら
口だけで終わってしまったもの
『推理文壇戦後史』シリーズは単行本で〈Ⅰ〉~〈Ⅳ〉まで刊行されたけれど、その後双葉文庫に入る際〈Ⅳ〉だけは文庫化されなかった。山村正夫が直に接してき探偵作家ひとりひとりの項を立てて一冊の本にしたのが『わが懐旧的探偵作家論』だとすると(最下段の関連記事リンクを見よ)、こちらは年度を追って個人の話題に捉われる事なく探偵小説界に起きたトピックについて著者の視点や体験を交えながら書き連ねた、業界ドキュメンタリーとも呼べる内容。
本書〈Ⅰ〉にて語られている事柄のうち、それほど有名でもないネタを拾っておくと、戦後に様々なグループが生まれた中で阿部主計/二宮英三/渡辺健治(ママ)/中島河太郎/萩原光雄/古沢仁/楠田匡介らの集まりは辛辣な批評というか悪口を臆面もなく発していたので、「青酸カリグループ」という物騒な名称が付けられたそうだ。
他にも〝あとむF〟と名乗る挑発的な探偵文壇時評を書く匿名者が現れ、探偵作家達にキツめの発言を投げかけた。その正体は木々高太郎。そういう発言をする者が業界内におり、しかもあの「抜打座談会」に象徴される本格派vs文学派対立の火種は続いていたから、高木彬光にとって大坪砂男だけでなく年長の木々も憎悪の標的になる。
それから先日このBlogで取り上げた島田一男『中国大陸横断〈満洲日報時代の思い出〉』(☜)に関する逸話もある。島田は敗戦後内地に戻ってくると『大陸情報通信』というガリ版刷りの地下新聞を発行、この新聞は五月蠅い検閲を無視して引揚者ニュースや進駐軍誹謗の記事を載せるため、たびたび進駐軍とバトルに。『満洲日報』の関係者が内地に引き揚げてくれば彼らの就職活動のために自分の生活は棚に上げて奔走した硬骨漢・島田一男が探偵小説に取り組むのは『宝石』創刊後のこと。
〈Ⅰ〉の後半は大坪砂男に関する項が多いので、大坪の読者は読んでおいたほうがいい。私にはたいして重要な活動ではないが、昔の探偵作家たちは嬉々として文士劇に興じることもあり、江戸川乱歩一座の内幕を記して本書はclose。こういうのを書き残すってのは文学座に居た山村正夫の趣味っぽい。
(銀) こちらのtwitterのスクショを見てほしい。
これだけ論創社と日下三蔵は『推理文壇戦後史』シリーズを復刊すると言っておきながら、この話はすっかり無かったことにされている。発売を楽しみに待っていた人達は今頃どう思っているのか、一度でも考えたことがあるのか是非訊いてみたい。原稿データをほぼ仕上げ発売直前までこぎ着けている訳でもないのに、調子に乗ってユーザーを煽り立ててばかりいるからこのザマだ。
制作サイドが「論創ミステリ・ライブラリ」と呼んでいるシリーズの第一弾・鮎川哲也『幻の探偵作家を求めて【完全版】』の編集方針が疑義の念を抱くものだったために(私以外からの購入者からも)批判を浴び、すっかりつむじを曲げて彼らはこの企画を放棄した・・・と思っていたけれど、上に挙げた(三番目の)論創社が出したツイートを見ると、少なくとも2021年4月まではまだ『推理文壇戦後史』シリーズを出したい気持ちが一応残っていたのか。イヤ、おそらく口先だけだろうな。
■ 山村正夫 関連記事 ■
★★ 異常心理に感情移入できず (☜)