2020年7月3日金曜日

『わが懐旧的探偵作家論』山村正夫

2013年2月20日 Amazonカスタマー・レビューへ投稿

双葉文庫 日本推理作家協会賞受賞作全集〈32〉
1996年5月発売



★★★★  身近な同業者として接した、戦後探偵作家達の横顔




いま山村正夫の名を挙げても最初に浮かんでくるのは彼のオリジナル作より、江戸川乱歩や横溝正史等の少年ものリライト代筆仕事かもしれない。作家デビューは昭和24年、弱冠18歳の時に雑誌『宝石』附録に掲載された「二重密室の謎」。昭和51年に単行本化されたこの評論『わが懐旧的探偵作家論』は戦後活躍した以下の探偵作家達との交友と懐古を綴ったもの。



朝山蜻一/鮎川哲也/江戸川乱歩/大河内常平/岡田鯱彦/大坪砂男/

香住春吾/香山滋/狩久/木々高太郎/楠田匡介/島田一男/城昌幸/

高木彬光/千代有三/角田喜久雄/日影丈吉/氷川瓏/山田風太郎/横溝正史



権田萬治『日本探偵作家論』との違いは、山村がそれぞれの作家の生の素顔を知った上で作品論を展開するので、各人のプライベートな人となりのほうが読んだ後に印象深い。また大河内・岡田・楠田・狩久・朝山・香住・千代・氷川ら戦後派のマイナーな顔ぶれはなかなか正面から採り上げられる機会が少なく貴重。この評論の姉妹編で、ゴシップな事件も含む戦後日本探偵小説界での出来事を主題とした『推理文壇戦後史』全四巻も面白いのだが、こちらはずっと絶版状態。





良く言えば誰にも好かれる、悪く言うと丁稚体質な性格だったからこそ、結果こういう回顧録を残せたといえるかもしれない。残念なのは本書中にあるように、漏れてしまった大下宇陀児・水谷準・鷲尾三郎・宮野村子・島久平ら幾人かの分が続刊として後に書き足されなかった事。この文庫においても中島河太郎の解説のみで、何かしらボーナストラック扱いの加稿がほしかった。それがあれば☆5つにしたのに。





山村には長篇「湯殿山麓呪い村」のように映画化された作品もあるが、冒頭でも述べたとおり自作の評価を顧みる動きはいまだ聞かない。それが作家としての山村正夫の限界なのかもしれないけれども、戦後探偵小説界の語り部としては認めてやるべきなのではないだろうか。






(銀) この項をupした令和27月には、かなり久しぶりとなる新刊本『断頭台/疫病』(竹書房文庫)がリリース予定。彼の作品を今出すならやっぱりこの辺の短篇を集めたものになるんだろうなあ。





参考までに竹書房文庫新刊の内容は、昭和の頃流通していた短篇集『断頭台』(5+「免罪符」が入っていた最初のカイガイ・ノベルス版、あるいは5+「暗い独房」が入っていた角川文庫版、どっちを採用するのか、もしくは「免罪符」「暗い独房」を両方収録するのか、現時点では不明)に「獅子」「暴君ネロ」「疫病」をプラスするとの噂。