2023年9月4日月曜日

『挿絵画壇の鬼才/岩田専太郎』松本品子/弥生美術館(編)

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河出書房新社 らんぷの本
2006年1月発売


★★★   『岩田専太郎 探偵小説挿絵画集』を切望す
 



岩田専太郎イコール美人画あるいは時代小説の名挿絵画家、このパブリック・イメージに固定されすぎてはいないか?昭和時代に刊行された個人画集がそういうテーマばかりだった弊害もあってか、彼の絵の鑑賞については和風かつ叙情的な見方に偏ったまま現在まで来ている気がする。クールなmodernityが彼のセンスにあったからこそ、時代小説作品における挿絵もあれだけウケたのに。(例えば田中比佐良あたりのヤボったい挿絵と比べてみるといい)




影やホリゾントを活かしたシアトリカルで洗練の極みにあるそのタッチは時代小説以上に現代小説、特に謎や疑惑を内包する探偵小説こそjust fitするものだと私は考えてやまない。ところが、専太郎が探偵小説に提供した挿絵に特化した画集が制作されるどころか、新しい鑑賞姿勢やアイディアを口にする人からして誰もいない。例の創元推理文庫「乱歩傑作選」のいくつかの巻など専太郎の挿絵が収録されている本が無い訳ではないが、あれだけではなんとも物足りぬ。美麗でセンシティヴな探偵小説画集として纏められた彼の挿絵に向き合ってみたい。私と同じ思いの方はいませんかね?




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今は市場から姿を消してしまっているようだが、2006年に開催された「岩田専太郎展」のプログラムとして弥生美術館が尽力したこのムック本は一つのジャンルに偏向せぬよう、総体的な作りでそれなりに頑張っていると思う。だが如何せん、130頁弱のボリュームでもってマニアックな部分まで掘り下げるのはどうにも無理だし、巻末に専太郎が挿絵を描いた小説のリストが載っているが、それを発表媒体別に分類するのはいいとして、どういう訳か博文館の雑誌がノー・チェックだったり、これでは貧弱。探偵小説のジャンルだけで追ってみても、漏れている作品は沢山ある。




竹中英太郎には竹中労/竹中紫といった家族の献身的なパブリシティがあって、静かにニーズを生み続けてきた。知名度は英太郎よりも上な筈なのに、岩田専太郎には良いキュレーターがいないので、素晴らしい仕事の価値が正しく伝承されているとは到底言い難い。だからこそ英太郎の『百怪、我ガ腸ニ入ル』に匹敵する〝岩田専太郎探偵小説挿絵画集〟がどうしても欲しい。

 

 

 

(銀) 昔の挿絵原画は専太郎にかかわらず残存しているものは非常に限られてはいる。でも現代の複写・印刷技術を持ってすれば、原画はなくとも初出誌の挿絵をそれなりの解像度で美しく提供してみせる事は不可能じゃない。要はキュレーターの存在、そしてその人のやる気次第なのだが・・・。




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