◆ 涙香の魅力
◆ 幻の『西洋女大学』について
◆ 「法廷の美人」の発見
◆ 「無惨」について
◆ 『今日新聞』と『都新聞』の涙香小説について
◆ 「何者」について
◆ 新発見の「紳士の行ゑ」をめぐって
◆ 「我不知」について
◆ 涙香小説拾遺
◆ まぼろしの「春残香」
◆ 「幽霊塔」雑感
◆ 「仙術霞の衣」の原作
◆ 涙香のS・F
◆ 「今より三百年後の社会」について
◆ 涙香の小説書
◆ 萬朝報と人身攻撃
◆ 涙香の離婚と再婚
◆ 涙香の恋文
◆ 涙香の墓
◆ 涙香伝再説
◆ 涙香研究家・阿川参悠
附録
黒岩涙香年譜
黒岩涙香書誌
あとがき
作品論と人物論とがそれほど系統立ててカテゴライズされてはおらず、時折引用される明治期の文章がさなきだに小難しい感じを与えるのもあって、本書にとっつきにくい部分が無いとはいえない(だから実質的には★3.5)。読みものとして楽しみたいのなら以前紹介した『涙香外伝』のほうが向いている。この時代はまだ判明していなかった事実もあって全般的に研究途上の印象。それゆえ「幻影城評論研究叢書」のうち何度も再発された権田萬治『日本探偵作家論』は別格としても本書はこのままリイシューするには適しておらず、だからこそこの後も伊藤秀雄をはじめ幾人かの識者によって涙香研究書は上梓され続けた。
黒岩涙香という男は土佐の出身なのもあって復讐心が人の数倍強い、という説には思わず笑ってしまった。〝いごっそう〟という言葉からして、昔の高知の男性には血の気が多そうなイメージが確かにある。それでもフヌケな令和の社会からは「レッテル貼りするな!」なんて声が上がるのだろうか。駄弁はさておき復讐をテーマにした涙香作品が断然面白いのは誰も否定のしようがない。
(銀) 巻末の「幻影城評論研究叢書」広告ページを眺めると、この時点では未発表に終わった鮎川哲也『探偵作家尋訪記』が刊行予定に入っているのが泣かせる。数年後鮎川は晶文社から『幻の探偵作家を求めて』と改題してようやくこれを発表に至らせるも、2019年に再発された『幻の探偵作家を求めて【完全版】』にて日下三蔵と論創社編集部が本来のコンセプトを破壊、尋訪記以外のものまで味噌も糞も一緒くたに叩き込む無能な悪編集を施してしまったことは各位よく御存知のとおり。