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ちくま文庫 日本幻想文学大全
2013年12月発売
★★★★ 東雅夫は「伝奇ノ匣」に匹敵する本を
もう作れないのだろうか?
調べものをする際に限らず、何度となく読み返してきたリファレンス・ブック。名だたる日本の探偵作家達も〝幻想文学〟のフィールドから照射した作品がリストアップ。私にしてみれば本書のチャーム・ポイントは準・探偵作家あるいは非・探偵作家の項。
曲亭馬琴だったら「三七全伝南柯夢」、広津柳浪なら「変目伝」「黒蜥蜴」、菊池寛なら「翻訳/猿の手(W・W・ジェイコブズ)」、大泉黒石だと『血と霊』『眼を探して歩く男』、牧逸馬は「白仙境」って具合に、普通のヒョーロンカが拾わなそうなところをrecommendしている。良し悪しはともかく、もしミステリ関連ガイドだったら高木彬光の項で「黒衣の魔女」と並んで「ラブルー山の女王」「ビキニの白髪鬼」を推すなんて、まず有り得ないもんね。
東雅夫の編纂した学研M文庫「伝奇ノ匣」シリーズは脳味噌をとろけさす麻薬のようなgood itemだった。あれが終わってからというもの、彼の仕事はどれも無難な大物文豪作家ばかりになってしまって、「伝奇ノ匣」シリーズが放っていた深海魚の如きほの暗くも美しい燐光を感じさせる本は出せていない。長い長い下り坂からなんとかしてもう一度這い上がってほしいと思いつつ、東雅夫の中では文豪作家に対する興味のほうが本流で、もしかしたら「伝奇ノ匣」シリーズはイレギュラーだったのか・・・最近そんな諦めさえ胸に抱くようなった。
本書に選び抜かれている各作家の顔ぶれを改めて点検してみれば、やっぱりメジャーで大家な作家の項はなにげに多い。そこには一部のマニアや好事家にウケるよりも、幻想文学読者の裾野を広げたい意志のほうが強く表れている。レアもの復刊にしか目が向かない人間に限って仕事ができなかったりするし、ミステリ・オタにありがちな「内容なんかどーでもいい、珍品にこそ価値がある!」なんて考えて生きている奴らとは違って、きっと東は真面目な人なのだろう。だから古書価がベラボーに高い作家の復刊とかでなく、素直に自分がイイと思えるものに向き合って本を作っているのかもしれない。
ただね・・・そうは言っても、ここ数年東雅夫が編纂した本に魅力を感じるかといったら、残念ながらそれはない訳で。自分がtwitterをやらないから、普段彼が何を考えどういう事を発信しているのか全く知らないのだが、長らく抱いてきた東への期待は憎むべき私の錯覚だったか?
(銀) 〝ここ数年東雅夫が編纂した本に魅力を感じるかというと残念ながらそれはない〟と書いたが、彼の名誉のために明言しておく。魅力を感じないのはセレクトされる作家/作品のテーマ性であって、一冊一冊の作りそのものは改めて申すまでもなく、よく出来ている。だから私はもどかしいのだ。東が論創社や盛林堂書房周辺の輩のような雑な仕事しかできないのならバッサリ見限ってしまえるけれど、決してそうじゃないのだから。
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