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創元推理文庫
2020年9月発売
★★ 同じような文豪/作家の繰り返し
セットで同時発売される平井呈一の『世界怪奇実話集 屍衣の花嫁』と対を成すものとして東雅夫が独自に編纂。前にもこのBlogに書いたけれど、【実話】というものは現実の出来事に沿って書かれているため創造の幅が狭くそれほど面白くもならないし、純然たる創作小説とは切り離して扱うべきだと思っている。小説なのかエッセイなのか判別し難い鵺のような作が多いのが本書の特徴で、大きく三つのパートから構成。
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〈Ⅰ〉
昭和4~5年に平凡社から刊行された「明治大正実話全集」という全十二巻の叢書がある。この中では甲賀三郎『強盗殺人実話』が、全体の半分しか収録していないという実に中途半端な状態で河出書房新社から再発されたのは記憶に新しい。
本書冒頭に置かれたのは、その「明治大正実話全集」田中貢太郎『奇蹟怪談実話』から「冕言」及び十三篇から成る「怪談短篇集」。短いものばかりだし、最初のうちはまだ普通にスラスラ読める。文中に後藤宙外や伊井蓉峰など実在の人名が頻繁に出てきて、そんな人達の周りから聞き集めた実体験(?)怪談話が並ぶ。最初に私が申した
❛小説なのかエッセイなのか判別し難い鵺のような作❜ というのはつまり作者の創造ではなく見聞による内容という意味で、以下そんな感じの作品が続く。
次も同全集、平山蘆江『妖艶倫落実話』から八篇をピックアップ。
〈Ⅱ〉
小泉八雲ファミリーに野口米次郎/瀧井孝作/芥川龍之介/佐藤春夫/稲垣足穂。要するに八雲と平井呈一に縁のある面々からのセレクト。作家からして自分の好みから遠くなってゆくので、読んでいても没頭できず睡魔に襲われる。
〈Ⅲ〉
泉鏡花/喜多村緑郎/小山内薫/岡本綺堂/畑耕一
橘外男/牧逸馬/黒沼健/徳川夢声/長田幹彦
一応このパートに期待して本書を買ったのだが、明治末期の怪談実話「蒲団に潜む美人の幽霊」を題材に使い小説に仕立て直した橘外男の「蒲団」が突出しているだけで、〈Ⅱ〉の退屈を覆すことはできなかった。
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自分との相性を考えると、探偵小説の枠の中にある〈怪談〉なら楽しめるのだが、明治の初め → 江戸時代と題材が旧くなっていくにつれ、そこに自分の楽しみは無いような気がする。繰り返しになるけど実話ものはやっぱりつまらん(ごく僅かな例外を除いて)。何年か寝かしたら本書も愉しめる気持ちになるかもしれないけれども、現時点では「自分に必要な本なのか、よく確認もせず買ってしまった・・・」と自戒したのであった。
(銀) 文豪ものしかり、どうして東雅夫はいつもグルグルと同じような題材しか本にしないのだろう?
出版社がそういうものしかオファーしないのか、彼の固定客がそういうものしか望んでいないのか・・・本書に収録された作家でも橘外男や畑耕一で一冊作ってくれたほうがよっぽど有難いし、それ以外でもあの素晴らしかった『日本幻想文学大全 Ⅲ 日本幻想文学事典』の中には文豪以外に面白そうなマイナー作家がワンサカいるじゃないか? この現状がアンソロジストというか編者としての彼の限界だとは思いたくないけれど・・・。