以前ワタシに喧嘩を売ってきた大陸書館(=捕物出版)の長瀬博之。その詳しい模様はコチラをどうぞ。
🕷 他人の小説を、テキストの最終チェックもせずに平気で売り捌く愚人達のこと① ☜
🕷 他人の小説を、テキストの最終チェックもせずに平気で売り捌く愚人達のこと② ☜
自分の暴言は棚に上げて「イヤなら買うな!」だのツベコベ言うので、向こうの要望どおり大陸書館/捕物出版の新刊はこのBlogで無視してきたが、例の盛林堂書房周辺の連中(善渡爾宗衛/小野塚力/杉山淳)がいつまでたっても悪質極まりない本の販売を止めないから、「大陸書館(=捕物出版)のほうも同じ状態なんだろうか?」とふと思い、ちょうど大庭武年の未刊長篇が出ていたので読んでみる気になった。
本書に収められた「曠野に築く夢」は昭和6年3月から6月まで『満洲日報』に連載されるが突然打ち切りになった作品(その点については後段で触れる)。言うまでもなく大庭武年のホーム・グラウンドである満洲を舞台にしたストーリー。支那南方政府の大官ながら亡命して今は大連に居を構えている黄宝廷のもとに、昵懇の間柄たる老翁・呉雨亭が訪ねてきて十万弗貸してほしいと迫るのだが、断固として黄は拒否するばかり。ふたりの口論が殺人事件に発展し、我らが郷英夫警部登場。彼の容貌は〝眉目秀麗の偉丈夫〟と表現され、なんだか短篇の時よりも男前度数が幾分かupしている感じ。本書60頁には黄宝廷が殺された書斎の略図が掲げてあるので、これだとつい本格風のストーリー展開を期待してしまうが、なかなかそうはいかない。
ロシア人老将アレキサンドル・ワシリッチ・スミルノフ、そして彼の息子達セルゲイやミハエルはなにやら秘かにクーデターを計画しているし、バンプな若き未亡人・山村斎子は伴雍一という年下の燕に入れ込んでおり、わざわざ東京から飛んでくるものの伴がつれないので日英混血不良青年ジョンニィ・スミスと火遊び。そんな風に話がいろんな方向へ枝分かれして先が見えない。中盤を過ぎた「癮者の秘密」の章に至ると、しばらく見せ場がなかった郷警部が黄宝廷殺人事件に関する推理を語り始め、あっちこっちに散らばったエピソードが収束モードに入りつつある?と思わせたところで連載中止。ええ~っ、嘘だろ?
中絶した他の探偵小説案件と本作が異なっているのは、書ききれなかった「曠野に築く夢」登場人物の行く末を連載中断告知の中で作者・大庭武年自身がわりとハッキリ明かしている事。これを読むかぎり、大庭が執筆に行き詰ったようには見えない。そうなると『満洲日報』側から連載中止を言い渡された可能性しか残らないが、〝社にも色々の方針があり、僕にも又多少の創作態度がありますので、兎に角談合の末、当小説は「七十四回」限りで、一先ず打ち切る事に致しました。(中略)社の方からは、終結に到るまでの筋書を ― と言うんですけれど、さアどうしたものでしょうね? (中略) 又いつか続きを書きます。その時ゆっくり読んで下さい。〟と語る大庭の言葉を我々はどう受け取ればいいのやら。
阿片窟のシーンとか(阿片はインポテンツによく効くって書いてあって笑った)、当時としては煽情的かもしれない山村斎子の振る舞いとか、退廃した描写は多々あるけど別に連載を打ち切られるほどのものとも思えぬ。では満洲に対する支那人やロシア人の暗躍が関東軍のお気に召さずに注意された?それもどうかな。『満洲日報』が合併されたり休刊していたかといえば、昭和6年の時点ではそのような気配も伺えない。中絶の理由はグレーだが最後まで完走できなかったのが悔やまれる。
長瀬博之のテキスト作成を見ると、善渡爾宗衛の信じられない崩壊テキストを毎度毎度読まされているせいか、本書は普通に真っ当な作業を行っているように感じた。冒頭にて連載開始直前の「作者の言葉」を載せているのも良し。本来「ハハーン」であるべき箇所が「はハーン」になっていたりしているぐらいで、こんなのは昔の新聞の植字ではよく見かけるレベル。こうして他の自主出版を眺めてみて、盛林堂書房周辺の人間だけが飛び抜けて常軌を逸してるんだなと改めて再認識。まあどんなに大陸書館の本を褒めようとも訳のわからん理由で長瀬博之がキレてああだこうだ言ってくるのは目に見えてるし、好意的な物言いもこの程度にしておく。
(銀) 大庭武年の記事を書くので『大庭武年探偵小説選』Ⅰ/Ⅱを引っ張り出してきた。横井司は十七年前「曠野に築く夢」について、〝本叢書への収録を見合わせたが、別の形での刊行を予定しているので、ご期待いただきたい〟と記している。果して横井の考えていた〝別の形での(「曠野に築く夢」の)刊行〟とはどのようなものだったのだろう?
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