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KL Studio Classics Blu-ray(1枚組)
2024年5月発売
★★★ 映画版「カナリア殺人事件」「グリーン家殺人事件」
「ベンスン殺人事件」
前々回、前回のヴァン・ダイン記事は本日取り上げるファイロ・ヴァンス映画ブルーレイの前座代わりに書き起こしたものゆえ、必要に応じ別ウィンドウを立ち上げるなど、お好みで参照して頂けたら幸いである。長篇「ベンスン殺人事件」「カナリヤ殺人事件」「グリーン家殺人事件」は原作の発表とほぼ同じ時期、本国アメリカ・パラマウントによって映画化されており、Kino Lorberがリリースしたこの北米盤ブルーレイ『Philo Vance Collection』はその三本を最新HDマスターにて収録。
ファイロ・ヴァンスを演じているのはウィリアム・パウエル。原作みたいにモノクル(片眼鏡)こそ掛けていないものの、様々なワードローブを着こなす彼の佇まい、醸し出す雰囲気は良い。相棒ヴァン・ダインは登場人物に設定されていない。主役を務めるウィリアム・パウエルの他、マーカム地方検事役のE・H・カルバート、ヒース部長刑事役のユージン・ポーレットが三作全てに出演。
それではコンテンツをチェックしてゆこう。
原作発表の順番と映画公開の順番は一致しておらず、本盤でも映画は公開順に並べられている。シーンごとのチャプターは無し。
【 仕 様 】
字幕:英語
音声言語:英語
リージョン:A(日本のブルーレイ・プレーヤーで再生可能)
パッケージ:スリップカバー入りトールケース
【 画 質 】
100点中80点といったところ。ネット上にupされているボヤけた映像に比べれば段違いのクオリティーだし、現在観ることのできるマテリアルとしては最高の状態と言っていい。ただ旧い素材なので劣化の激しいリールがあるらしく、その部分を完璧に修復しきれていない。コントラストの強弱もあと少し処理できていたら、より美しい映像になっただろう。35mmフィルムを用いて「カナリヤ殺人事件」「グリーン家殺人事件」は4Kスキャン・レストア、「ベンスン殺人事件」には2Kスキャン・レストアが行われているが、この中で一番ブライトな画質に感じるのは「ベンスン殺人事件」。薄暗いシチュエーションの場面が少ないからだろうか。
【 収録内容 】
♣ 「The Canary Murder Case」(=カナリヤ殺人事件) 80分
原作発表:1927年 / 映画公開:1929年
監督:マルコム・セント・クレア
三作通して言えることだが、ちょうど無声映画からトーキーへの端境期ということもあり、役者の喋るセリフは普通に録音されている反面、劇中の音楽は無く効果音も僅かしか入っていない。それゆえ戦前の映画を観慣れていない人には退屈で、少々ハードル高し。下手に褒めちぎって妙な期待を持たせないよう、その旨前置きしておく。
絞殺に至るまでの生きているマーガレット・オーデル嬢(カナリヤ)を回想ではなく現在進行形で見せているため、踊り子たちのレビュー・シーンが挿入され、それなりに華やか。本作の重要なポイント「➊密室偽装トリック➋アリバイ・トリック➌ポーカー・ゲームによる心理洞察」のうち➋➌は再現できているけど、小道具を用いた➊のトリックは可視化されていない。あと小説では犯人自ら選択したあの結末だったのに、え、何それ?
♣ 「The Greene
Murder Case」(=グリーン家殺人事件) 68分
原作発表:1928年 / 映画公開:1929年
監督:フランク・タトル
本格長篇をむりやり一時間前後の枠にまとめている訳で、どの作品もヴァンスお得意の衒学趣味を差し込んでいる余裕が無く、必要最低限なプロットを軸にストーリーは進行。とはいえ、ちょっとでも雪を降らせて侵入者の足跡に注意を向けさせたり、シベラの飼っている愛犬が省略されずに出てきたり、発生した事象一覧をヴァンスが書き付けているシーンも見せるなど、脚本家がヴァン・ダイン原作を活かそうと努力しているのはよく解る。ここにキャスティングされているレックスやアダ役の役者は小説の中でこちらが勝手にイメージするあの二人のヴィジュアルより整って見えるけれども、それはそれで悪くない(本作のアダも「カナリヤ殺人事件」のアリス・ラ・フォスも同じ女優ジーン・アーサーが担当)。
序盤から、グリーン家の人々が住んでいる邸の屋上を高い位置に組んだキャメラで捉えるカットが散見され、小説にはそんな屋上など描かれていなかったし何か意味が?と思っていたら、原作ラストにおけるカーチェイスの代りにグリーン家の屋上で・・・これ以上は自粛。
♣ 「The Benson
Murder Case」(=ベンスン殺人事件) 65分
原作発表:1926年 / 映画公開:1930年
監督:フランク・タトル
原作三篇のうち「ベンスン殺人事件」が最も面白くない以上、映画の内容で比べても評価は低くなる。よって原作「ベンスン」の記事は今回書かなかった。読者諒セヨ。
♣ 特 典
・三作品のオーディオ・コメンタリー(字幕無し)
・映画「Blackmail」予告編
・映画「Lucky Jordan」予告篇
・映画「The Hour Before The Dawn」予告編
(いずれもKino Lorberから北米盤ブルーレイ絶賛発売中)
画質が100点満点に近いか、あるいは「カナリヤ」「グリーン家」のエンディングが原作に準拠しているか、そのどっちか実践できていたら★4つにしたのだけれど、歴史的価値はともかく一本の映画として鑑賞するには集中力を要する。と言いつつウィリアム・パウエルのファイロ・ヴァンスで「The Bishop Murder Case」(=僧正殺人事件)が撮影されなかったのは残念。
(銀) 本日紹介した三作以外にもヴァン・ダイン作品映画はあり、幾人かの男優がファイロ・ヴァンスを演じている。一部海外ファンの間では特に、ウィリアム・パウエルが主演ながら配給元がパラマウントではなくワーナー・ブラザーズであったため本盤未収録となった「The Kennel Murder Case(=ケンネル殺人事件)」(1933年)のブルーレイ化が待たれているようだ。
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