2025年2月12日水曜日

『映像の世紀バタフライエフェクト//ラストエンペラー溥儀~財宝と流転の人生』

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NHK総合
2025年2月放送



★★★★   皇帝失格




1987年の映画「ラストエンペラー」(監督:ベルナルド・ベルトルッチ)は史実どおりのドキュメンタリーに非ず、エンターテイメント性を重んじて、あれこれ脚色を加えた作品である。今回「映像の世紀バタフライエフェクト/ラストエンペラー 溥儀 財宝と流転の人生」がオンエアされたことで〝溥儀は運命に弄ばれた可哀相な皇帝〟という単純かつ一面的な見方を改めた人も多かったのではないだろうか。

 

 

「ラストエンペラー」の冒頭、ソ連の抑留地から政治犯として中華人民共和国へ送還されてきた溥儀(ジョン・ローン)はリストカットして自殺を図るが、実際の溥儀はかなりの小心者。死刑になることを最も怖がっており、毛沢東からも皮肉を言われているほど。





映画「ラストエンペラー」より
死を恐れる現実の溥儀に、こんな真似ができる筈もない





東京駅で溥儀(右)を出迎える裕仁天皇(左)
この場面は「ラストエンペラー」でも再現して撮影されたのに、
日本側から何らかの申し入れがあったらしく、
劇場版はおろか長尺版でさえ天皇のシーンは削除されたまま。
顔立ちと言動があまりノーブルに思えない点は二人とも共通している。
(現人神だか知らんが、戦争を止めるべくアクションを起こさなかった裕仁を私は全く評価していない)

 

 
溥儀が紫禁城から流出させた由緒ある宝物の少なからぬ物量には驚いた。どれもこれも怪人二十面相がヨダレを垂らして欲しがりそうなものばかり。この番組で紹介されたお宝はホンの数点にすぎないが、中国政府が現在その回収に躍起になっているとはいえ、いくら金を積もうと何処に行ってしまったのか分からぬ品々の回収はさすがに難しいと思われる。これだけ唯一無二の宝物を流出させておいて、溥儀は中国国内でとんでもない大罪人扱いされてないのか、他人事ながら心配になるね。





溥儀が流出させた膨大な宝物のうちの一部














まだ紫禁城に居た頃から、溥儀は留学費用を工面する目的などと言って、少しづつ宝物をちょろまかし生家へ移していた。その後も日本の富豪に名画「五馬図鑑」を売却したり、日本の敗戦が濃厚になり内地へ亡命しようとしてソ連軍に取っ捕まった時も保身のためお宝をばら撒いたり、皇帝とは思えぬ振舞いばかりしている。東京裁判における溥儀の無責任な弁明を聴いて呆れかえった日本人も、ようやく溥儀のチキンぶりを知ることに。





東京裁判での溥儀





満洲で撮影された溥儀の正妃・婉容
映画でも描かれていたように、この頃の彼女は阿片中毒状態。
哀れな末路を辿る婉容にとって溥儀は嫁ぐべき男ではなかった。





同情すべき点もあるものの、どう見ても愛新覚羅溥儀は人民の上に立つ器ではない。皇帝の座に戻りたくて日本軍に頼ったかと思えば、満洲國の立場が危うくなると変り身も早くスターリンに尻尾を振ったり、言っちゃあ悪いが何の誇りも持たぬ唯の人。ジョン・ローン演じる綺麗な顔のラストエンペラーはスクリーン上の幻影だったのだ。
  

 

 

 (銀) 今回の「映像の世紀バタフライエフェクト」は面白かった。今後、ひとりの人物にスポットを当てるのであれば、前人未踏の六十九連勝を成し遂げたがゆえ皇軍のシンボルに祭り上げられた戦前の大横綱・双葉山定次を特集してほしい。引退後に璽光村事件を起こしたりもして、彼の一生は溥儀よりはるかに奥が深い。

 

 

 

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