✷ 正しく金を注ぎ込んで映画が作られていた最後の時代を飾る作品が例えば「愛人/ラマン」(主演ジェーン・マーチ)であり「ラストエンペラー」だったのかもしれない。公開された時には「贅沢に作られた大作だな」と感心していたものだが、天安門事件以降、中国は世界中の民族に禍をもたらす史上最悪の侵略国家になってしまって、もう昔のように無邪気な気持ちで「ラストエンペラー」を観ることはできないね。とにかく、周庭ちゃん達やウイグルの人々が少しでも無事である事を祈りつつ、本日は「ラストエンペラー」最新リマスター盤について記す。
海外のネット情報には間違いも見受けられるようだし、2024年リリースCriterion Collection『The Last Emperor』北米盤の仕様をメモしておく。
◖ パッケージ:ノーマルなトールケース(デジパックではない)
◖ ブックレット:約40ページ
◖ 各ディスクの字幕
~ 本編には英語字幕あり (しかし中国語・日本語のセリフは殆ど字幕が省かれている)
~ 特典映像では、英語以外の音声には英語字幕があるが、英語音声には字幕なし
◖ disc-1/4K UHD (リージョンフリーだがUHD対応プレーヤーでなければ再生できない)
~ オーディオ・コメンタリー
コメンタリーの為の字幕は無し
特典映像
~ The Italian Travelers
「ラストエンペラー」プロジェクト開始前から撮影に至る迄のベルナルド・ベルトルッチ・ドキュメンタリー(53分)
~ Postcards From China
「ラストエンペラー」の中国ロケハン的なベルナルド・ベルトルッチ・ドキュメンタリー(8分)
~ Bernardo Bertolucci’s Chinese Adventure
メイキング(51分)
~ Making The Last Emperor
メイキング(45分)
~ The Southbank Show
「ラストエンペラー」の制作・撮影模様を追った当時の英国テレビ番組(66分)
~ David Byrne Interview
音楽を担当したデヴィッド・バーン〈トーキング・ヘッズ〉のインタビュー(25分)
~ Beyond The Forbidden City
日本にも精通しているイアン・ブルマ(ジャーナリスト)による20世紀前半の中国・アジア解説(45分)
~ The Late Show : Face to Face
ベルナルド・ベルトルッチをゲストに招きインタビューを行った当時の英国テレビ番組(30分)
~ Trailer
予告編(3分)
・ 私の部屋のテレビは大画面でないからかもしれないが、2Kレベルでもwowowの放送ほどにコントラストの不満を覚えることはなく、綺麗。本当ならdisc-1の4K UHD「劇場版」が飛び抜けて画質が美しい筈なのだが、4Kテレビで観ていないため最高のクオリティーは享受できない。
・ disc-2の「長尺版」はもともとイタリアのテレビ放映用に編集されたからなのか、2024年Criterion北米盤に入っている三種の本編のうち、あからさまな差ではなくとも、他の二つと比べ肉眼で観て画質が劣っているのが解る。
・ disc-3の2Kブルーレイ仕様「劇場版」は、ほぼdisc-1の4K UHD「劇場版」と同じレベルの美しさ。
UHDのアドバンテージが2Kテレビには何も反映しないのであれば、物理的にこの二つの「劇場版」は同レベルな筈。おそらく2023年12月に出た日本盤4KリマスターBDは、レストアもグレーディングもCriterionより質が低いせいで、評判が悪いのではなかろうか?私の観たwowow放送はかなり古いマスターを使っていると思われるし。
✷ 海外の映画マニアは〝現在「ラストエンペラー」の最も優れたソフトは、Arrow Videoが2023年に限定リリースした二枚組4K UHD英国盤だ〟と言っているみたいで、今回紹介している2024年Criterion北米盤は「5.1chじゃないからダメだ!」とか、彼らの要求はクレイジーなほど高い。なんにせよ日本ではマルチリージョン対応プレーヤーを持っていないかぎり、欧州のブルーレイはどうせ観られないのだから、とりあえず普通のユーザーが高画質を求めるとしても、Criterionの北米盤で良しとしていいんじゃない?というのが結論。
(銀) youtubeには映画公開後にプロモーションで来日したジョン・ローンと坂本龍一が出演している「夜のヒットスタジオ」の映像がupされていて、サカモトによるテーマ曲の演奏も観ることができる。こんな日本独自のおいしい映像が存在していながら、(権利問題のクリアはもちろん大変だろうが)日本盤ブルーレイに特典映像として収録できない日本のメーカーはダメですな。
サカモトのビジネス・パートナーであり、「ラストエンペラー」にも日本人医師として出演している生田朗。「ラストエンペラー」公開の翌年、休暇中のメキシコにて車を運転していた彼は、崖から転落し33歳の若さで亡くなっている。スタジオ・ミュージシャンからYMOの一員になり、「戦メリ」で海外にも認知され、思えば昇り龍の如く続いてきたサカモトの有卦も、生田の死を境に翳りが見え始める。
このあとサカモトには、早川雪洲を主人公に据えた映画「Hollywood Zen」に出演する話があった。プロデューサーは「戦メリ」「ラストエンペラー」のジェレミー・トーマスで、監督は大島渚。完全な主役だっただけに、もし作品が完成し各国でヒットしていたら、世界のショービズ界におけるサカモトのステイタスは、我々の知っているそれとは比べものにならないぐらい巨大になっていた可能性もある。
サカモトがこの映画の準備をしていたという情報は『月刊カドカワ』を読んで知っていたので、実現せずに終って残念。なにより「Hollywood Zen」が成功していれば、ミレニアム以降に鎌首を擡げ始めた妙な左傾化もあそこまで酷くならずに済んだのかなア・・・と「テクノデリック」までのYMOが大好きだった自分としては色々考えるところが多い。
(坂本龍一は若い時分からリベラルだったとかネットで言っている人間を見かけるが、学生の頃の彼は新宿駅で「♪友よ~」と唄っている連中をひっぱたいていたと生前語っている。そもそも、ヨノイ大尉や甘粕正彦を演じさせられる奇妙な運命にあったとはいえ、実働期のYMOメンバーは三人とも右にも左にも擦り寄ったりはしなかった。)